一緒に暮らそう
「紗恵が神戸に来たのって、彼がいたからって理由だけなの?」
 話の流れの中で芹菜がこんな質問をしてきた。
「ううん。それだけじゃないよ。神戸ってグルメの町っていうイメージあるでしょ。私が前に読んだ本には、『通りを歩けば3、4軒おきにおいしいパン屋やケーキ屋が並んでいる』って書いてあったの。おしゃれなカフェもいっぱいあるみたいだし、どんな町なんだろうって興味があったの」
「そっか。紗恵、専門学校では洋食の勉強してたもんね」
「まあ、神戸に来たといっても、すぐに近くの田舎に引っ越しちゃったから、休みの日ぐらいしか町に行けないけどね。町に出たら、斉藤さんとカフェへランチを食べにいってるの」
「紗恵。あんたは老人ホームの食事じゃなくて、洋食を作りたいんじゃないの?」
「うん、そうなんだ。私、できることならカフェメニューを作ってみたいのよね」
「カフェメニューって、オムライスとかパスタとかケーキとか?」
「うん。とか、ベーグルサンドとかカレーとか。暇な時に寮でカフェレシピの本を開くのが楽しいの。自分だったらこういうメニューを作りたいなって構想を練っているのよ。思いついたメニューをネタ帳にも書き溜めているわ」
 「そっか。あんたは昔から前を向いてるんだよね。三十路に入ろうとしている今だって現在進行中なんだ。いつかその夢が叶うといいよね」


 JR大阪駅のホームで紗恵は芹菜を見送った。
 今度友達に会うのはいつのことになるのだろうかと思った。
< 110 / 203 >

この作品をシェア

pagetop