一緒に暮らそう
「律子は今、何をやってるの」
 親戚のおばさんの一人がたずねる。「律子」とは出奔した紗恵の母親の名であることを、紗恵はこれまで聞いてきた情報から知っていた。

「どうせ、場末のクラブでホステスでもやってるんだろ」
 若かりし頃の叔父がふてくされた声で言う。
「これ、日出夫。姉さんのことをそんなふうに言うんじゃないよ」
 祖母が息子をたしなめた。
「だってそう言われたって仕方ないことしただろ、姉ちゃんは。子どもをここに捨てて男と逃げちゃったんだからさ」
 子どもというのが自分自身のことであることも、紗恵にはわかっていた。

「あの男に出会いさえしなけりゃあの子もね、まともな人生を送れたのはずなのにねえ。商業高校を出て、一旦は地元の信用金庫へ就職できたからね。あの子みたいにきれいな子はかえって不幸になるんだよ。悪い男が寄ってくるからね」
 おばさんがしみじみ言う。
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