一緒に暮らそう
 そこへ低い男の声がした。
「すいません。お取込み中申し訳ないが、会計をしてもらえないかな」
 振り向くと長身の男が、揚げ出し豆腐と肉じゃがを持って立っていた。二週間ほど前から店に通うようになった男だ。
「あ、すみません。ただいま」
 紗恵は叔父との話を中断した。急いでレジの前に回ると、男から受け取った商品をレジ袋に詰め、代金の精算をした。
「ありがとうございました!」
 彼女はいつものように明るい声で声を掛ける。

男はいつものように、無表情で無口なまま店を出ていく。見たところ、年齢は30代半ば。スーツ姿から会社員であることがうかがい知れる。いつも仕事帰りに夕飯を買っていくところを見ると、よそに家族を置いて単身赴任をしているのかもしれない。

長身でなかなか涼しげな面差しをしている。でもイケメンは苦手だと紗恵は思った。昔、自分に借金を押し付けて逃げた男はイケメンだったけれど、女にもてる男は女をなめているやつが多い。二十代前半の頃の苦い思い出が脳裏によみがえる。

それにしても、彼には変な場面を見られてしまったものだ。
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