一緒に暮らそう
談話ルームには他に二人の入居者が座っていた。
中山さんが割と強い口調で真剣な話をしているのにもかかわらず、彼らは自分の世界に入っている。紗恵だけが彼の言葉に耳を傾けている。
「とえらそうに言うてもな、僕かて昔は自分に自信があったわけやない。この前あんたに話したみたいに、自信の無さから恋人と別れてもうた。まあ、ああでもないこうでもないと悩むのが若さっちゅうやつなのかもしれへんけどな」
中山さんは再びいつもの笑顔を浮かべる。
「もしもあの時に自分に会えるなら、僕は若い時に自分に、今あんたに言うたことと同じことを言ったるで。『あんたもっと自分を大事にしいや』ってな」
中山さんは和菓子の礼を言うと立ち上がり、室内にあるピアノに向かった。
この前みたいに調律のひどさにぶつくさ文句を言いながら、彼はいくつかの曲を弾いた。
音楽には不案内な紗恵の知らない曲ばかりだったが、知っている曲もあった。
それはフランツ・リストの「愛の夢」だった。
彼が演奏を終えた時、その場に居合わせた他の入居者たちがパラパラと拍手を送った。
それを見た彼は得意げに唇の端を持ち上げた。
中山さんが割と強い口調で真剣な話をしているのにもかかわらず、彼らは自分の世界に入っている。紗恵だけが彼の言葉に耳を傾けている。
「とえらそうに言うてもな、僕かて昔は自分に自信があったわけやない。この前あんたに話したみたいに、自信の無さから恋人と別れてもうた。まあ、ああでもないこうでもないと悩むのが若さっちゅうやつなのかもしれへんけどな」
中山さんは再びいつもの笑顔を浮かべる。
「もしもあの時に自分に会えるなら、僕は若い時に自分に、今あんたに言うたことと同じことを言ったるで。『あんたもっと自分を大事にしいや』ってな」
中山さんは和菓子の礼を言うと立ち上がり、室内にあるピアノに向かった。
この前みたいに調律のひどさにぶつくさ文句を言いながら、彼はいくつかの曲を弾いた。
音楽には不案内な紗恵の知らない曲ばかりだったが、知っている曲もあった。
それはフランツ・リストの「愛の夢」だった。
彼が演奏を終えた時、その場に居合わせた他の入居者たちがパラパラと拍手を送った。
それを見た彼は得意げに唇の端を持ち上げた。