一緒に暮らそう
翔子が連れてこられたのはオレンジの看板を上げる牛丼屋だった。彼女の人生でこういう類の店に来るのは滅多にないことだ。
二人はテーブル席に座った。彼女は古い記憶をたどって、この店の注文方法を思い出した。新多はセットメニューを、彼女は単品を注文した。ハンバーガーのチェーン店と違って、会計は後でするシステムだった。
「昼はだいたい牛丼屋か定食屋かラーメン屋と決まっている」
新多が言う。女性の同僚を伴うからといって、他の店を選ばないところがいかにも彼らしい。
「そう。リーズナブルよね。ちょっと栄養が偏りそうだけど、でもお手軽よね」
「栄養面なら心配ない。夕飯でバランスをとるから」
「へえ。夜は何食べてるの? まさか自炊?」
「彼女が野菜たっぷりの惣菜を作り置きして冷凍してくれるんだ」
「あ、そういえばお料理得意だったわね」
さっそく例の「彼女」の話が出て翔子の気分が下がる。一方で、翔子の言葉を聞いた彼の頬が緩んでいる。料理が上手いからといって、決して家庭的な女ではないはずなのに彼ときたら。
「ふーん、どんなお惣菜を作ってくれるの」
そんなことに興味なんかないが、一応会話のラリーを続けてみる。すると彼はうれしそうに「彼女」の作るメニューを列挙するではないか。
「小松菜と油揚げのお浸しだろ、肉じゃが、キャベツとキュウリの柚子風味の浅漬けだろ……サーモンマリネに、水菜とトウモロコシのサラダ、大豆とひじきの煮物に……まあ、レパートリーは豊富だよ」
「あらそ。それは良かったわね」
それぐらいのメニューだったら、翔子でも作れそうではないか。料理本を読めば、多分。
二人はテーブル席に座った。彼女は古い記憶をたどって、この店の注文方法を思い出した。新多はセットメニューを、彼女は単品を注文した。ハンバーガーのチェーン店と違って、会計は後でするシステムだった。
「昼はだいたい牛丼屋か定食屋かラーメン屋と決まっている」
新多が言う。女性の同僚を伴うからといって、他の店を選ばないところがいかにも彼らしい。
「そう。リーズナブルよね。ちょっと栄養が偏りそうだけど、でもお手軽よね」
「栄養面なら心配ない。夕飯でバランスをとるから」
「へえ。夜は何食べてるの? まさか自炊?」
「彼女が野菜たっぷりの惣菜を作り置きして冷凍してくれるんだ」
「あ、そういえばお料理得意だったわね」
さっそく例の「彼女」の話が出て翔子の気分が下がる。一方で、翔子の言葉を聞いた彼の頬が緩んでいる。料理が上手いからといって、決して家庭的な女ではないはずなのに彼ときたら。
「ふーん、どんなお惣菜を作ってくれるの」
そんなことに興味なんかないが、一応会話のラリーを続けてみる。すると彼はうれしそうに「彼女」の作るメニューを列挙するではないか。
「小松菜と油揚げのお浸しだろ、肉じゃが、キャベツとキュウリの柚子風味の浅漬けだろ……サーモンマリネに、水菜とトウモロコシのサラダ、大豆とひじきの煮物に……まあ、レパートリーは豊富だよ」
「あらそ。それは良かったわね」
それぐらいのメニューだったら、翔子でも作れそうではないか。料理本を読めば、多分。