一緒に暮らそう
「反対に弟は自由人だよ。30近くまでずっと海外留学をしていた」
「まあ、兄弟そろって学究肌なのね」
「あいつの場合はそんなんじゃないよ。留学っていっても単なる遊学さ。親父が定年のない士業をしてるからこそ、やらせてもらえるんだ。今は語学力を活かして地元で観光ガイドをやってるよ。もちろん独身だ。でもガールフレンドは常にいるよな。向こうにいた時は現地の女と付き合ってたし。兄弟の中であいつが一番軟派な奴だ」
「あなたとは対照的だわね。お母様は?」
「お袋は専業主婦だ。だから君みたいに手の込んだ料理をいつも作ってくれたよ。それに気づいたのは友達の家に遊びに行った時だったな。それまでうちのお袋が普通だと思っていた。市販のスナック菓子を食べたのも友達の家が最初だ。ポテトチップスとかポッキーとかな。うちでは子どもたちの健康のために、お袋がおやつを手作りしていたんだ」
「へえ。どんなおやつ?」
「大学いもとかドーナツとか寒天ゼリーとかだった。ケーキやクッキーを手作りしてくれることもあったな。君の好きな『パンケーキ』だってお袋なら作れるぜ。今思えばすごくありがたいことなんだけど、子どもの頃はジャンキーなものが食べられる友達がうらやましかったよ」
 紗恵が笑みを漏らす。
「いいお母様だったのね」
「ああ。ありがたいことにね。大学進学で家を離れるまで自分で料理も洗濯もしたことがなかった。親父やお袋のありがたみは今になってしみじみわかるよね」
「そう。素敵な家族なのね」
 新多の育ちの良さから家族の感じはなんとなく予想していた。
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