一緒に暮らそう
「君のところは親がいなくて大変だったんだよね」
 新多が静かな声でたずねる。
「そう思うでしょ? 家のことを話すと人はみんな同情してくれるんだけど、これがあんまり大変じゃなかったのよ。おばあちゃんがいたからね。おばあちゃんには叱られたことがなかったのよ。うちは甘い方だったんじゃないかな。おばあちゃんのお手伝いはしていたけどね」
 むしろ苦労したのは、専門学校時代に元彼のトラブルに巻き込まれた時だった。
「近所に同い年の女の子がいてね。その子の家のお母さんはヒステリーを起こして、しょっちゅう娘をたたいてたのよ。家の前を通ると、よくその母親の金切り声とあの子の泣き声が聞こえてきたわ。寒い冬の時期に、あの子が雪の中に外套も着せられずにほっぽり出されていることもあった。そんな時は、お腹を空かせて泣いてるあの子に差し入れを持っていったものよ。あの子の家を見ていたものだから、つくづく私はおばあちゃんの家の子で良かったなって思ったわ」
 紗恵は幼なじみの芹菜のことを話した。
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