一緒に暮らそう
雨とビールと恋心
 ホームの食堂。昼食時間が過ぎた後、いつものように紗恵がパートのおばさんたちとテーブルを拭いて回っている。

 すると入居者の中山さんが紗恵に話して掛けてきた。彼は紗恵の手が空く時間を見計らってはやってくる。おばさんたちは、紗恵が彼のお気に入りであることを知っているので、にやけた顔をしている。

「今日もお仕事頑張ってはるなぁ」
 中山さんがいつもの笑顔で声を掛けてくる。
「ええ。お陰様で」
 紗恵も作業をしながら笑顔を返す。
「あんた、またなんかええことあったんちゃう?」
「やっぱりわかりますか。中山さんは私のことお見通しなんですよね」
「そうや。あんたは気持ちがすぐに顔に出るさかいに、なーんでも丸わかりや」
「えへへ。いつもそうおっしゃいますよね」
「紗恵ちゃんのええこと言うたら、彼氏のことしかあらへんな」
「そうなんです。この前彼と一緒に誕生日をお祝いしたんです」
「ほお。あんた、誕生日やったんか。それはおめでとう」
「ありがとうございます」
「で、彼氏が誕生日プレゼントをくれはったと」
「そうなんです。これがそのプレゼントなんですよ」
 そう言って紗恵は胸元に下がるネックレスのストーンを指でつまんで、中山さんに見せてみせる。
「ほお。きれいなネックレスやないか。若い人はええなぁ。ここで年寄りどもに囲まれて暮らしてると、そういう話が新鮮に感じられるわ」
「そうなんですかぁ」
 紗恵が苦笑する。
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