一緒に暮らそう

　それなのに、どういうわけか紗恵は神戸にあるとあるカフェの前にいた。自分はもう新多についていくことに決めてしまったと頭ではわかっているものの、体が止まらなかった。

　日曜の午後。紗恵は中山さんがくれた、目的地の住所が書かれたメモを頼りに、彼の知り合いは営むというカフェを訪れた。

　ビルの２階にあるカフェは「海辺の生活」という屋号で、海をモチーフとした店だった。青い壁には本物の貝殻が埋め込まれていて、カモメや灯台といったマリンテイストのオブジェが飾られている。
　オーナーは６０歳代の女性で、カフェの他にもバーやレストランを経営している実業家だった。いかにも女性実業家らしく、きちんと化粧をして上品な身なりをしている。彼女は紗恵を店内の一席に案内し、面談を始めた。