一緒に暮らそう
 新多は車を四辻の路肩に停めた。
 暗がりの中に二階建ての木造アパートが見えた。この雪の中、すきま風が吹き込んできそうな感じの建物だ。

「ここが私の家です」
 紗恵が言う。
「こんなに遅くなって、家族が心配しているでしょう」
「いえ、一人なので」
 意外な答が返ってくる。
 独りってことは両親と暮らしているわけでも、彼氏や夫がいるわけでもないということか。
 新多はそう考えたが、口に出して訊くことはしなかった。

「店はしばらくお休みですね」
「はい、仕方ないですね。明日から片づけと修理をします」
「そうですか。それは残念です。しばらくそちらの料理が食べられないなんて」 
「そう言っていただけるとうれしいですね。できるだけ早く再開できるようにがんばります」
 新多は彼女の目が一瞬和むのを見た。

「今日は本当にありがとうございました」
 紗恵が深々とお辞儀をして、アパートの中に入っていく。
 彼女が中に入ったのを見届けると、新多はキーを回してエンジンをかけた。
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