一緒に暮らそう
 あの日から3日後に、紗恵はふたば屋を再開することができた。
 店の掃除に1日かかった。
 割れたガラスの入れ替えにゼロが4つ付く金額を費やした。
 軽自動車の修理費用もばかにならない。車がないと仕入れができないので、今は板金工場から代車を借りている。

 紗恵はため息をついた。
 店舗の大家である叔父に、月の賃料をつり上げられてしまった上に予定外のこの大出費。今月は完全に赤字確定だ。
 それでもこの店を続けるより他に生活の手段がないから、このままいくしかない。今月さえがまんしたら、来月以降に帳簿の帳尻を合わせることができるかもしれない。


 夜8時50分。
 待っていたお客が姿を現した。いつもどおり、閉店間際にモスグリーンのモッズコートを羽織ってやってきた。

「斉藤さん、こんばんは」
 紗恵は覚えたばかりの彼の名を呼ぶ。
「こんばんは」
 新多がぼそっと返す。
「思ったより早く再開したんだね」
「ええ、がんばって早く片付けました。うちのおかずを待っているお客さんがいますから」
 紗恵は笑みを浮かべる。
「先日はどうもお世話になりました」
「いやいや。なにせ元に戻って安心したよ」
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