一緒に暮らそう
新多が自宅のマンションに着いた。
 早速、冷えたビールを一杯やりながら、唐揚げ弁当に箸をつける。
 うまいと新多は思った。
 サクサクに揚がった揚げ物もうまいけれど、何より飯の炊き方がいい。県産のコシヒカリはすでに冷めているのに、ふっくらつやつやしていて美味しい。
 小松菜と揚げの和え物もしょっぱすぎず甘すぎず、ほど良い塩加減だ。
 期待しないで入った店だったが意外にもおいしい惣菜を売っている。
 

 数日後、新多がPCで現在進行中の企画をタイプしている時、部下の三上がたずねた。
「主任もあの弁当屋に行ってんすね」
 足下のくず入れの中から、「ふたば屋」と印刷されたポリ袋が見えている。新多があの雪の日に行った店の屋号だ。
「ああ」
 新多は事も無げにくず入れを見下ろす。
「なんだ。主任もあのオネーサンのファンになったんすね」
 三上が意味ありげな笑みを浮かべて言う。
「飯だ。飯の炊き方が上手い」
 それは本当のことだ。あの店の惣菜や弁当が本当にうまいからあそこに通っている。新多は自分にそう言い聞かせるように、部下に言う。
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