一緒に暮らそう
 数日後、紗恵は石造りの洋風レストランの前で、同居人と待ち合わせをしていた。

 彼を待つ間なんだかウキウキしている自分に紗恵は気づいた。こんな気持ちになるのは久しぶりだ。今日は、この前雑貨屋でテーブル用品といっしょに買ったバイカラーのシュシュで髪をまとめている。

 待ち合わせの時間ぴったりに新多は現れた。律儀な彼らしい。
 
 二人は窓際の席に着いた。
 この店のランチメニューの一つにキノコとベーコンのキッシュがある。別のランチメニューであるハンバーグのデミグラスソース掛けに惹かれながらも、新多は紗恵と同じキッシュのメニューを注文した。メニューの写真を見ると、なるほどキッシュなるものは彼女が言っていたとおり丸い形をしている。

「お仕事は?」
 紗恵がたずねる。
「あ、今日はもう終わりだ」
「そうですか、それはお疲れ様でした」

 ほどなくして、ウェイターが二人の所にキッシュランチを運んできた。

 新多がまずはキッシュをフォークで切り分け、一口食べる。チーズの香りが利いた生地が口の中に広がる。
あ、これは……」
 彼がつぶやく。
「え?」
「食べたことあるかも。君の言っていたとおりだ」
「ええ、そうでしょう。そうじゃないかと思っていたわ」
 紗恵がほほ笑む。
「子供の頃、母親がデパ地下の惣菜屋で買ってきたことがある。普通の近所の惣菜屋には売ってないからな、こういうのは」
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