一緒に暮らそう
「おいしいですか?」
 茶色い瞳を向けて彼女がたずねてくる。

「うまい、けど……」
「けど、何?」
「これはこれでうまいよ。だけど、男はこういうのは好んで注文しないよ。調理パンに毛が生えたような昼飯じゃサラリーマンは満足しない。こっちのメニューにあるハンバーグとかがっつりしたやつの方が好きだな。女の人はこういうのが好きなんだな」
 同居人の正直な感想に紗恵は笑った。

「これじゃ、エネルギーの補給に不足だったかしら?」
「いや、これはこれでいいんだ。一度どういうもんか食べてみたかったんだ。その、君がそんなに食べたがってたキッシュってやつを」
「そう。なら良かった。今度、家でも作ろうかと思っているんですよ。あなたの台所にはオーブンもあるから」
「そうかい。好きなものを何でも作ってくれ。君は何でも作れるからな」
 新多にほめられて、紗恵はこそばゆい気持ちになる。

「普段はお昼ご飯に何を食べているんですか」
「いつもは研究所で一括して弁当を注文している。研究所は会社の社屋と違って小さいから社員食堂はないんだ。弁当に飽きたら、たまに同僚と連れ立って近くの牛丼屋とか定食屋に行っているよ」
「そうなんですか」
 いかにもサラリーマンらしい昼ごはんだ。

「外食は油ものと穀類が多いからな。だから、君が野菜たっぷりの夕飯を作ってくれて助かっているよ。あの田舎町にいた頃も、君の店にずいぶんとお世話になった」
「そう言っていただけてうれしいです」
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