一緒に暮らそう
「まだ食べていなかったんだな」
 卓上に二人分の皿が並べられているのを見て、新多がたずねる。
「ええ。ちょっと今日はお話ししたいことがあって、ご一緒させてもらうことにしたんです」
「そうか。ちょうどいい。俺も君に話したいことがあるんだ」
 新多は、家賃と食費の免除を打診するつもりでいる。
 仕事をやめた紗恵のことだから、持ち金も少ないだろう。家事労働の分、こちらがいくらかお金を渡しても良いくらいだが、そこまですると遠慮深い彼女が拒むかもしれない。

 席に着くと、紗恵が「お疲れ様」と言ってグラスに発泡酒を注いでくれた。
 新多はそれを一気に飲んだ。爽快感が体中を巡る。
 さっそくコロッケを取り皿に取り、箸を入れる。彼はほっこりとしたジャガイモの食感を楽しむ。
 
「で、お話ってなんですか」
 目の前の紗恵がたずねてくる。
「あ、えーとね……」
 口の中で熱々のコロッケを咀嚼しながら、新多が途切れ途切れに言う。
「……君の話からしてくれよ」

「はい。それでは私から話しますね」
「うん」
 空腹の新多は、彼女の話よりもむしろジャガイモのコロッケに集中している。

「実は今週末。引越しをしようと思うんです」
「引越し!?」
 新多の箸が止まる。
 彼は顔を上げ、同居人の白い顔を見つめた。彼女は微かに笑みを浮かべている。
「ええ。仕事が決まったんです。住み込みのまかないの仕事が」
「何だって!?」
 新多が大きな声を上げた。
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