一緒に暮らそう
「まかないの仕事ってどんな?」
「老人ホームの調理職員です」
「どこの?」

 新多にたずねられ、紗恵は神戸から在来線で一時間ほど内陸に行ったところの町を挙げた。
 山あいの鄙びた温泉地だ。おそらく、天然温泉の入浴施設が売りの老人ホームなのだろう。

「職員のための寮が併設されているんですよ。神戸からちょっと離れているし、寂しい所だけど、住まいが確保されているから就職することにしました」
「いつから?」
「次の月曜日からです。だからこの週末には引越しをしなければなりません」
 
 新多は唖然とした。
 神戸に引っ越してきてから3週間もしないうちに仕事を見つけるなんて、ちょっと早すぎやしないだろうか。

「福祉施設の食事を作ることが君のしたいことだったのか?」
「ずばりしたいことではないけど……でも、料理を作る仕事に変わりはないし……」
「君は惣菜、特に洋風総菜を作りたいんだと思っていたんだけど」
「それはそうですけど、今時そんな思い通りの仕事なんて見つからないし、まずは職を見つけて自立することが先決だと思ったんです」
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