一緒に暮らそう
 土日にかけて引越しの作業を行った。
 田舎町から移ってきた時同様、紗恵の荷物は少量だった。休日も仕事で忙しい新多を煩わせないよう、彼女は引越し業者に荷物の運送を頼んだ。
 
 日曜の午後一時過ぎ。休日出勤を終えた新多がマンションに戻ってきた。
 ダイニングに足を踏み入れると、紗恵の所持品はきれいさっぱり片付けられていた。彼女が使っていた寝室をのぞくと、そこももぬけの殻だった。声を発すると、薄暗い六畳間にこだまが響いた。

 キッチンに入ると、紗恵が笑顔で、いつもどおり「お帰りなさい」と言ってくれた。
 彼女は大型冷蔵に頭を突っ込んで、中の整理をしている。

「お惣菜を詰めたタッパーを入れておきますね。ひじきと大豆の煮もの、青菜のお浸し、アジのマリネ、切り干し大根の煮物がありますから。2週間くらいもつと思います」
 庫内をのぞくと、青いフタの付いたタッパーがいくつも置かれている。
「引越しで忙しいのに、俺の食事のストックまで用意してもらってすまない」
「いいえ。大した手間じゃないですよ」
 紗恵らしい気遣いだと新多は思った。

しばらくストックがあるといっても、2週間経ったら、もう彼女の作った料理はなくなってしまう。帰宅する時の楽しみがなくなってしまった。暖かい団らんの時間はこんなにもあっさり消えてしまうものなのだろうか。

 明日はもう仕事の初日である。
 紗恵は夕方には新居に入る予定で、もう二人が夕餉を囲むことはない。
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