一緒に暮らそう
新多は紗恵を神戸駅まで送った。

 駅までの道すがら、二人は無言だった。
 紗恵はあの冬の日のことを思い出した。店を暴漢に襲われた夜、新多が彼女を自宅アパートまで送ってくれた。あの晩はひどく雪が降っていて、視界が悪かった。
 季節が移り変わる早さを感じる。

 彼女はあの町を捨てて知らない町にやってきた。
 その選択は正しかった。
 それが「正しかった」と思えるように、これからしていかねばならない。

 新多の四駆が神戸駅のロータリーに停まった。
 紗恵はボストンバッグをつかんで、車のドアを開こうとする。

 その時、彼がつぶやいた。
「本当は行かないでほしい」
 紗恵は半身を傾けたまま、運転席の方を見る。彼はこちらの方にその涼やかな横顔を向けている。
「本当はずっとうちにいてほしいんだ。君に。いい仕事が見つかるまでいるべきだとか、家のことをやってほしいとか、そういうこととは関係なしにずっと」

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