一緒に暮らそう
「斉藤さん」 
 紗恵は一旦、元の姿勢に戻った。

「引っ越すからってこれが最後のお別れってわけじゃありません。私、お休みの日には神戸に来ます。だから、これからも私と会ってくれませんか」
 ためらいがちの元同居人に、彼女は笑顔を向ける。
「もちろん」
 彼が答える。心なしか表情が明るくなっている。

 紗恵は四駆の高い座席から降り、車内の新多に向かって挨拶した。
「今までどうもありがとうございました。どうかお体に気を付けて」
「君も体に気を付けて。垣内さん」
 新多が久しぶりに彼女を名前で呼んだ。

 その場所は長いこと駐車できないスペースだったのにもかかわらず、新多は駅舎へ歩いていく紗恵の後姿をずっと眺めていた。見ず知らずの土地で、女一人で生きていくにはあまりにも細い背中だ。

 後ろからクラクションを鳴らされて、やっと我に返った。
 
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