一緒に暮らそう
あの大雪の日以来、彼はちょくちょく「ふたば屋」に通っていた。閉店前の惣菜屋で、可愛らしい店主に明るい笑顔を向けられながら「ありがとう」とか「お疲れ様」と声を掛けられるのが、独り身の、もはや中年と呼ばれる年齢に達した自分のささやかな楽しみだったのだ。

 いかにも清潔そうな三角巾をかぶったあの彼女に、そんないかがわしい過去があったなんて。彼女の笑顔は天使の微笑みに思えたのに、やはり女なんて見た目じゃわからないものなのだろうか。

 この地方特有の抜けるような白い肌に、つぶらなハシバミ色の瞳。華奢な体つきながらも、仕事着であるエプロンの下に豊かな胸が見て取れる。あれが作り物だというのか。それが本当のことだとしたら、新多はますます女というものがわからなくなる。彼は学生時代からちょっと女は苦手だったから。
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