一緒に暮らそう
 二人は紗恵の座る席の前に立った。

「すまない。待った?」
 新多がたずねてくる。
 紗恵が答える。
「いいえ」
「実は」
 新多が横目で隣の女性を見る。彼は渋い顔をしている。

 デパートブランドで身を固めた颯爽とした女性だ。華やかなエルメスのスカーフとトリーバーチのロゴ入りフラットシューズを身に着けている。
 年の頃は新多と同じくらいだろうか。

「同僚が君を見てみたいと言ってきかなくて、強引についてきたんだ」
「『強引に』とは失礼ね。堅物のアラタに彼女ができたっていうから、会いに来たんじゃないの。友達として当然でしょ」
「俺は別にお前と友達になったわけじゃないぞ」
「あら、十年以上の付き合いなのにずい分冷たいこと言うのね」
 傍らの二人はお互いを「アラタ」「お前」と呼び合っている。二人はいったいどういう関係なのだろうかと紗恵は思った。

「あら、彼女さんが怪訝な顔をしているわ。自己紹介しないと。私は古屋翔子。アラタの同僚で、大学時代の同級生よ。よろしくね」
「初めまして。垣内紗恵です」
 紗恵はぺこりと頭を下げた。
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