一緒に暮らそう
「そ、それは大変なことでしたけど、だからって何であなたが私と彼のことに口を挟んでくるんですか」
「私は彼の同僚だからよ。彼の仕事のことがよくわかっているの。あなたよりもね。ねえ、知ってる? 彼は言わなかったけど、彼、病気のせいで投稿論文を落としてしまったのよ」
「え?」
「あなたもちょっとは聞いているかもしれないけど、彼、自分のこれまでの研究の成果を海外の権威ある学会に投稿しようと張り切っていたでしょ。でも結局、先日の締め切りに間に合わなかったのよ。あんなに頑張っていたのに、かわいそうだわ。まず仕事の方を優先させたから、自分のことを後回しにしたのね。そういうところがいかにも彼らしいわ」
 翔子がその目を伏せる。

「そうだったんですか」
 先日の温泉旅行は楽しかったが、あの時彼は無理に時間を作って会いにきてくれたのかもしれない。紗恵の胸に後悔のような罪悪感のような気持ちが湧く。

「彼は優しいから、あなたに心配を掛けるようなことは一切言わないのね。垣内さん。彼に会いたい気持ちもわかるけど、しばらくそっとしておいてあげてくれないかしら。せめて、彼が元気になって普通に仕事ができるようになるまで」
「おっしゃることはわかります。でも、あなたがここへ来て彼の看病をするくらいなら、私がそれをします。さあ、そこをどいてください!」
 紗恵は再び玄関に入ろうとする。

「誤解しないで。私は別に彼の看病をしにきたわけではないの。病気なら医者が治すわ。私は同僚として、ここ数日ずっと休んでいた彼に仕事の連絡をしにきたのよ」
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