一緒に暮らそう

 ある日、ホームの食堂で食事の配膳をしていると、入居者の一人が紗恵に声をかけてきた。
 中山という70代の男性入居者である。

「紗恵ちゃん。あんたはおばあちゃん子と違うか」
「どうしてわかるんですか」
 思いがけない質問に紗恵が訊き返す。
「そら、僕にはなーんでもお見通しや。人生経験が長いさかい人間観察に長けてるねん」
「すごいですね、中山さん。ビンゴです」
 紗恵はほほ笑んで言う。

「あんたはな、ほんまの介護士やないのに、ここでじいさんばあさんの食事の介助をさせられてる。あいつらはそれがわかってへんし、あんたのやり方に文句を言いよる奴もおる。せやけど僕にはわかるで。あんたは無資格にしちゃ年寄りの扱いが上手い」
「そうなんです。私、ずっと祖母と二人で暮らしてきたんです。彼女はもう、数年前に他界しましたけど」
「そうかい。そら残念やったなぁ」
「ええ」

 中山さんは、現役時代はジャズバンドのメンバーだった人で、神戸にある居留地跡のレストランやホテルのラウンジでピアノを演奏してきた。生涯独身である。
 彼は他の入居者とは毛色の違う雰囲気を持っている。時々、紗恵に話しかけてきては深い話をしてくる。

< 98 / 203 >

この作品をシェア

pagetop