携帯電話をめぐる狂気
先程よりも、足音が近くで聞こえる。
足音は明確な意志を持って、女に近づいてくる。
じわりじわりと迫る足音に耐えきれず、女は走り出した。
きっと、その人も帰り道が同じなだけだ。早足になったのは、急いでいたからで、自分をつけているのではない。
そうして自分に言い聞かせ、不気味な予感を振り払おうとしたが、一方では嫌な想像が、頭の中を回っていた。
もしもあれが、ストーカーだとしたら――
もしも、捕まってしまったら――
その恐怖が、さらに女の足を速めさせる。