さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】
見上げた私の目に映ったのは
上下黒のジャージ姿の先生だった。
学校ではいつもスーツだったので、なんだかドキドキした。
夜中まで見廻りをしているという噂は聞いていたけど、
まさか会えるなんて…
喜んだのも束の間。
「能見香奈、お前には失望したよ…」
私の下の名前『香奈』を覚えていてくれた喜びは一瞬にして消えた。
『失望した』と言った喜多先生のとても悲しい表情。
悲しそうな瞳でじっと私を見ていた。
…ごめんなさい。
私、先生を悲しませた。
毎日先生がどんな気持ちで生徒を叱っているのか…そばで見ていてわかっていたつもりだったのに。
先生を癒す存在になりたかったのに。
私も他の生徒と同じ。
先生を悲しませてしまった。