さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】
「おはようございます。先生…」
生徒指導室へ一歩足を踏み入れると、
コーヒーのいい香りが鼻をくすぐった。
「甘~いコーヒー入れといたから!!」
いつもは笑顔のない朝なのに、喜多先生はにっこりと笑って私を見た。
そして…
「お前………その髪…」
喜多先生はいつも私の想像とは違う行動をして
私をドキドキさせる。
私は、想像していた。
『真っ黒似合わね~』って頭を叩かれることを。
『へんなの!』って笑いながら、先生は頭を撫でてくれる。
想像と全く違う反応。
喜多先生は
コーヒー混ぜるスプーンを止め、しばらく振り向かなかった。
その大きな背中が
小さく震えていることに
気付いてしまった。