さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】
信じたくない噂
終業式が近付き、私は信じられない噂を耳にした。
「喜多先生、転勤するらしいよ!」
何人かの生徒がざわざわと騒ぎ出した。
そんな噂信じない。
先生は言ってくれた。
『お前が卒業するまで、俺が面倒みてやる』…って。
『お前の相手できるのは、俺しか無理』…って。
嘘でしょ?
転勤なんて嘘だよね?
喜多先生をよく知らないクラスの生徒が言った。
「喜多先生いなくなったら、怖くないからいいね!」
あんたは何も知らない。
あんたは喜多先生の愛を知らない。
どんな気持ちで生徒を叱っているか…
どんな気持ちで私達を見守っているか…
「でも、喜多先生って俺は好きだけどな。怖いけど、他の先生より話しやすいもん!」
クラスの男子がそう言うと、たくさんの生徒がうなづいた。
きっと噂だけだ。
嘘に決まってる。
そんなはずない。
だって、昨日も話したもん。
普通に笑顔で話して、先生の口からは甘いマンゴーの匂いがしたもん。