さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】


「誠に残念ですが、転勤することになりました。喜多です。」




喜多先生の口から言われると


もう 信じるしかない。





本当に先生がいなくなる。



もう


学校のどこを探しても会えない。



生徒指導室に行っても


知らない匂いしかしない。





甘いコーヒーの匂いも


マンゴーの匂いも


さよなら。





「正直言って、僕はこの高校から離れたくありません。僕がいなくなった後のみんなが心配で仕方がありません。」



喜多先生は鼻をすすった。


案外涙もろいってことも、私だけが知っている秘密。



「心配な生徒がたくさん残っているし、僕を慕ってくれるかわいい生徒もいる。できれば、いつまでもここにいたかった。でも、どうすることもできません。」



先生はズボンの後ろのポケットからハンカチを出し、目を押さえた。




「僕がいなくなっても、僕の残したものはいつまでもこの学校にあります。僕の姿はなくても、君達が悪いことをすれば僕は悲しい。だから、しっかりとした毎日を過ごしてほしい。今を精一杯生きてほしい。」




もう涙で先生の姿が見えなくなっていた。



喜多先生が話し始めてから、誰一人私語をする生徒がいなかった。




< 36 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop