さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】
「誠に残念ですが、転勤することになりました。喜多です。」
喜多先生の口から言われると
もう 信じるしかない。
本当に先生がいなくなる。
もう
学校のどこを探しても会えない。
生徒指導室に行っても
知らない匂いしかしない。
甘いコーヒーの匂いも
マンゴーの匂いも
さよなら。
「正直言って、僕はこの高校から離れたくありません。僕がいなくなった後のみんなが心配で仕方がありません。」
喜多先生は鼻をすすった。
案外涙もろいってことも、私だけが知っている秘密。
「心配な生徒がたくさん残っているし、僕を慕ってくれるかわいい生徒もいる。できれば、いつまでもここにいたかった。でも、どうすることもできません。」
先生はズボンの後ろのポケットからハンカチを出し、目を押さえた。
「僕がいなくなっても、僕の残したものはいつまでもこの学校にあります。僕の姿はなくても、君達が悪いことをすれば僕は悲しい。だから、しっかりとした毎日を過ごしてほしい。今を精一杯生きてほしい。」
もう涙で先生の姿が見えなくなっていた。
喜多先生が話し始めてから、誰一人私語をする生徒がいなかった。