さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】
「絶対内緒な。」
冷蔵庫から先生がプチシュークリームを出してきてくれた。
誰もいないのに、わざと小声で言う喜多先生は、私の想像していた怖い先生ではなかった。
確かに見た目は怖いけど、
心の温かい人だ。
「ねぇ、先生って怖くないの?」
私はプチシューをひとつ口へ運ぶ。
その後にコーヒーを飲むと、先生が言った通り、苦く感じなかった。
「俺?怖いよ!俺が怒らなきゃ誰が怒る?」
茶色いソファに深く腰掛けた先生は、ふーっとコーヒーに息を吹きかけた。
この人…
絶対に優しい。
こんなに大きな体で、怖い顔して、低い声なのに…
ブラックのコーヒーが飲めないんだ。
私のどんな質問にもちゃんと答えてくれるんだ。
そして、話すときは私の目をじっとみてくれる。
だから、喜多先生に入学式の日に連れ出された男子は、
毎日この部屋に遊びに来るんだ。
先生の愛のムチ…
生徒の心に届いてるんだね。