さよならは言わない~涙の離任式~【ショートストーリー】
「さてと…今からは、真剣に行くから。お前もちゃんとしろ!」
食べ終えた先生は、背筋を伸ばし、ひざの上に両手を乗せて、咳払いをした。
いつもはふざけている私も、先生につられて、きちんと座った。
口の中は甘かった。
部屋の中には甘いコーヒーの匂いがしていた。
私は、真剣に話す喜多先生に吸い込まれそうになっていた。
目が離せなかった。
この先生が
私を変えてくれるかも知れない。
「最近、よく休んでるだろ?」
どうして喜多先生が知ってるの?
習っていないのに。
「髪も、前の色の方が自然で似合ってる。」
前の髪の色をどうして知ってるの?
「スカートもなぁ…ちょっと短すぎだな。そういうのは、好きな男にだけ見せればいいんだよ!」
最後にそう言って、またかわいい顔で笑った。
30分くらい話していたと思う。
でも、終わって欲しくなかった。
もっと話していたい。
どうしてこんなに素直に話せたのかわからないけれど、
私は今の自分の不満を話すことができた。
「高校面白くない」
「チャイムの音が嫌い」
「制服もかわいくない」
「家でも勉強しろとうるさい」
「クラスの女子は真面目すぎて気が合わない」
何を言っても喜多先生は、頷いた。
「おお、そうか」
「なるほど」
「確かにそうだな」
私の心は軽くなっていた。