Romansia
第一章
「あの山には、近づかんほうがええ」
「鬼が出る」
「人喰い鬼だ」
「奴に魅入られたら、術をかけられ山へ連れていかれて、肝を喰われてしまうんだと」
『Romancia』
指先に力を込めて、男の頑強な腹部に腕を突っ込んだ。
大丈夫、声が出せないように、喉は切ってある。
目的のものを掴んで、引きずり出すと、男の壊れた笛みたいな呼吸が止まった。
夕陽を浴びてオレンジ色に輝く、艶やかな臓物。
これが、あたしの生きる糧。
あたしは、両手にそれを乗せて、一心不乱にむしゃぶりついた。
人喰い鬼。
あたしは、もう、人の生き肝を喰らいながら千年の命を長らえてきた。
ずっと、この日本海に面した港町を見下ろす、切り立った岩山の中に、たった一人で。
ときどき、余所者が、海を目指してこの山を越えようとするのを見ると、健康そうな人間を選んで喰らった。
鬼がいる。
やがて、そんな噂が立って、山越えをする者がいなくなると、あたしは町に下りるようになった。
鋭い牙や、角を隠して、道行く若い男に声をかけるのだ。
美しいあたしを見ると、男はみな、騙される。
そんなことをしているので、山狩りにも、何度も遭った。
そのたびに、全員、喰らってやった。
最近は、捕まえた男たちと、冥途の土産にと寝てやることが多い。
あたしなりの、罪滅ぼしなのかもしれない。
「鬼が出る」
「人喰い鬼だ」
「奴に魅入られたら、術をかけられ山へ連れていかれて、肝を喰われてしまうんだと」
『Romancia』
指先に力を込めて、男の頑強な腹部に腕を突っ込んだ。
大丈夫、声が出せないように、喉は切ってある。
目的のものを掴んで、引きずり出すと、男の壊れた笛みたいな呼吸が止まった。
夕陽を浴びてオレンジ色に輝く、艶やかな臓物。
これが、あたしの生きる糧。
あたしは、両手にそれを乗せて、一心不乱にむしゃぶりついた。
人喰い鬼。
あたしは、もう、人の生き肝を喰らいながら千年の命を長らえてきた。
ずっと、この日本海に面した港町を見下ろす、切り立った岩山の中に、たった一人で。
ときどき、余所者が、海を目指してこの山を越えようとするのを見ると、健康そうな人間を選んで喰らった。
鬼がいる。
やがて、そんな噂が立って、山越えをする者がいなくなると、あたしは町に下りるようになった。
鋭い牙や、角を隠して、道行く若い男に声をかけるのだ。
美しいあたしを見ると、男はみな、騙される。
そんなことをしているので、山狩りにも、何度も遭った。
そのたびに、全員、喰らってやった。
最近は、捕まえた男たちと、冥途の土産にと寝てやることが多い。
あたしなりの、罪滅ぼしなのかもしれない。