エゴイスト・マージ
化学室
人を好きになるって
どんな感じなんだろう

友達は恋をすると楽しくって
その人と一緒にいるだけで嬉しくなる
そういつも聞かされていた

周りの子が好きな人の話をしていても
私はついていけなくってその輪には
入れなかった

誰かと付き合えば
私もきっとその人を好きになって
皆と同じような気持ちに
いつかなれるんじゃないかって


ずっと憧れていた


でも……実際はまるで違った


誰と一緒にいても何の感情も湧かない
友達からはクールだと言われたけど
そんなんじゃない

目の前の人を好きになりたくって
いつもそう思い込もうと
足掻いてる自分がいる


もしかしたら、私は人を好きになる事が
ないのかもしれない
恋に焦がれているけど
それは自分の中の強迫観念にも似た意識に
囚われているだけで

このまま……ずっと



漆黒の暗闇の中で…………







だから



その人に出会って

それまでの自分が否定された
気がした

人を想う辛さを覚え

声を聞くと苦しくて
姿を見ると泣きそうになった


痛みを伴う感情に押し潰されそうになって尚
求めずにはいられないくらいになって

ようやく
どうしようもないくらい特別な人なのだと
気が付いた


それが私の初恋だった











”次のニュースです……昨夜……の少年が
ビル……転落にて……”





朝は快晴だったのに
昼過ぎから雲行きが怪しい

「雨かな……カサ持ってくれば良かった」

教室から移動教室の為に渡り廊下を歩いていた

何気なく……習慣づいてる所為で
中庭を眺めてると
その先にある化学室のカーテンの隙間から
人影が見えた気がした

視線を逸らすつもりが、いつも失敗してしまう



……が、そこにいる気がして









+科学室+






私はその日、放課後忘れたノートを取りに
化学教室に向かっていた

本来なら明日でも良かったけど
試験があると分かった以上
そう悠長にも言ってられない

化学室に続く廊下は向かいの校舎の
オレンジの光を浴びて
まるで異世界へ、いざなうかの如く
何処までも伸びていた

この教室は校舎のはずれ辺りで普段から
授業が無いと生徒も近寄らない為
放課後ともなると一段と静まりかえっている

少し古びた音を立てて開いた教室の中に
人の気配は無く

夕日で実験器具等が乱反射してて
何だか幻想的にさえ思える
不思議な空間は暫し目を奪れ
当初の目的だったノートを片手に
時を忘れて佇んでいた

ガラッ

突然の扉の音にビックリして
咄嗟に机の影に隠れてしまった

……モチロン隠れる必要なんて無い

ただ、人もいない時間にこんな場所にいる自分に
所在不明の不安感と後ろめたさが
そう行動に移させた





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