エゴイスト・マージ
「あ。所で、醒いつもなんか
分厚い妙~な本読んでへん?」
「あ、はい」
いきなり話が変わって驚く。
「これは後から知人に言われて
気がついた事なんやけど、出会った頃、施設で醒ちゃん、
全く喋らんかったゆーたやろ」
私は頷いた。
「アレ、言葉喋れんかったとうか、
理解出来てなかったやないか
って言われた」
「……え?どういう事ですか?」
「まんまや。俺達が話してる言葉を
必死で覚えていたんじゃないかって」
子供って母親とか周りがどれだけ
自分に対して、
喋り掛けてくれたかによって
覚えるんやて、言葉。
アイツの環境……やろ?」
背筋がゾッとした。
先生の話から、
母親がちゃんと話とか
していたようには到底思えなくて。
私が固まってると、
”俺も指摘されるまで
気ぃつかんかったんや”
とボソリと呟いた。
あの頃から本を引っ張ってきては
なんや眺めとった。
最初は言葉を覚える為、
それから何も考えたくない。
現実逃避の手段だったのかもな」
「……」
「あそこにいる者
皆、自分なりに自分の気持ちと
現実を必死に折り合いをつけようと
模索してた時期、
その中、醒は感情を殺すことを覚えて、
色んなモン殺ぎ落とすことで
生きることが楽くに
なったんやないかな。
小さいながら自分をコントロールし
制御してなきゃきっと正気でいることが、
出来きひんかった。
ってとこやろって今なら思える」
目の前に曖昧な色彩で模った
幼き日の先生が独り鈍色の空を
見上げている情景が見えた気がした
それは瞬きと共に
掻き消されてしまったけれど
「学生時分、あの容姿やんか、
ものごっつモテててんけど
多分母親の影響やろうな。
……女に冷とうて
かなりムチャクチャな
付き合い方しとった
傍目には羨ましく感じていたヤツも
いたやろうけど
俺は見ていてハラハラしてた。
醒が壊れていきそうで。
だってな、
女といる時、アイツ
薄笑いを浮かべるんやで。
中坊のガキが……な」
蔦さんは思い出したかのように
眉を潜めた。
「先生って普段何で
あんな口調なんですか?」
「ああ……醒は教師を
”偽善者”だと思もてる。
だからわざと
あんな物の言いをしよるんや」
「……偽善者」
蔦さんは、’せや’と頷いてみせた
「あんなに嫌ろとったのに
いきなり何やあったかは知らんけど
教師になるって言いだした時、
天地引っくり返るくらいビックリした。
で、ちゃんと”先生”やれてるのか、
心配で時々こうやって見に来てる」
「教え方上手いですよ」
「そうか」
「素行は悪いですけど」
「やな」
そういって二人で顔を見合わせて
悪戯っぽく笑った。
「醒の事好きなん?」
「……嫌い、じゃありません」
「自分、正直でええ子やな」
「蔦さんこそ」
蔦さんは少し首を横に振った
「……まぁ、ともかく」
陥落するの超難易度高いで、頑張り」
「はい!!」
「今でこそあんな八方美人みたいに
笑った顔してるけど」
いつか心から笑ってる顔見てみたいねん。
まだ諦めてないし、頑張ろうなって。
そういってくれた。
「先生の事、好きなんですね」
「……そや。仲良ようしたってな、
俺アイツお気に入りやねん」
私は力強く頷いた。
蔦さんの想いを引き継ぎたい。
心からそう思って。
蔦さんは私の頭に大きな手を乗っけると、
笑いながらクチャクチャとかき乱し
もう一度笑ってくれた。
分厚い妙~な本読んでへん?」
「あ、はい」
いきなり話が変わって驚く。
「これは後から知人に言われて
気がついた事なんやけど、出会った頃、施設で醒ちゃん、
全く喋らんかったゆーたやろ」
私は頷いた。
「アレ、言葉喋れんかったとうか、
理解出来てなかったやないか
って言われた」
「……え?どういう事ですか?」
「まんまや。俺達が話してる言葉を
必死で覚えていたんじゃないかって」
子供って母親とか周りがどれだけ
自分に対して、
喋り掛けてくれたかによって
覚えるんやて、言葉。
アイツの環境……やろ?」
背筋がゾッとした。
先生の話から、
母親がちゃんと話とか
していたようには到底思えなくて。
私が固まってると、
”俺も指摘されるまで
気ぃつかんかったんや”
とボソリと呟いた。
あの頃から本を引っ張ってきては
なんや眺めとった。
最初は言葉を覚える為、
それから何も考えたくない。
現実逃避の手段だったのかもな」
「……」
「あそこにいる者
皆、自分なりに自分の気持ちと
現実を必死に折り合いをつけようと
模索してた時期、
その中、醒は感情を殺すことを覚えて、
色んなモン殺ぎ落とすことで
生きることが楽くに
なったんやないかな。
小さいながら自分をコントロールし
制御してなきゃきっと正気でいることが、
出来きひんかった。
ってとこやろって今なら思える」
目の前に曖昧な色彩で模った
幼き日の先生が独り鈍色の空を
見上げている情景が見えた気がした
それは瞬きと共に
掻き消されてしまったけれど
「学生時分、あの容姿やんか、
ものごっつモテててんけど
多分母親の影響やろうな。
……女に冷とうて
かなりムチャクチャな
付き合い方しとった
傍目には羨ましく感じていたヤツも
いたやろうけど
俺は見ていてハラハラしてた。
醒が壊れていきそうで。
だってな、
女といる時、アイツ
薄笑いを浮かべるんやで。
中坊のガキが……な」
蔦さんは思い出したかのように
眉を潜めた。
「先生って普段何で
あんな口調なんですか?」
「ああ……醒は教師を
”偽善者”だと思もてる。
だからわざと
あんな物の言いをしよるんや」
「……偽善者」
蔦さんは、’せや’と頷いてみせた
「あんなに嫌ろとったのに
いきなり何やあったかは知らんけど
教師になるって言いだした時、
天地引っくり返るくらいビックリした。
で、ちゃんと”先生”やれてるのか、
心配で時々こうやって見に来てる」
「教え方上手いですよ」
「そうか」
「素行は悪いですけど」
「やな」
そういって二人で顔を見合わせて
悪戯っぽく笑った。
「醒の事好きなん?」
「……嫌い、じゃありません」
「自分、正直でええ子やな」
「蔦さんこそ」
蔦さんは少し首を横に振った
「……まぁ、ともかく」
陥落するの超難易度高いで、頑張り」
「はい!!」
「今でこそあんな八方美人みたいに
笑った顔してるけど」
いつか心から笑ってる顔見てみたいねん。
まだ諦めてないし、頑張ろうなって。
そういってくれた。
「先生の事、好きなんですね」
「……そや。仲良ようしたってな、
俺アイツお気に入りやねん」
私は力強く頷いた。
蔦さんの想いを引き継ぎたい。
心からそう思って。
蔦さんは私の頭に大きな手を乗っけると、
笑いながらクチャクチャとかき乱し
もう一度笑ってくれた。