エゴイスト・マージ
その日少し4限目が早く終わって
お昼の日課となっている化学室に
辿り着くと丁度、授業が
終わったらしく生徒がバラバラと出てきた
教室に入った瞬間、向こうの方から
声を掛けられる振り向くと
相変わらずの爽やかな雰囲気の裄埜君が
駆け寄ってきた
「あ、雨音~
いい所で会った
コレさ同じクラスの
森川に渡しててくれないかな?
それと部活ミーティングもあるから
早めに来いって」
「うん。分かった」
部誌みたいなものを手渡され
私にサンキューと声をかけると
軽く手を振って出て行った
再び教室に目を向けると生徒は
既にいなくって先生が白衣のまま
缶コーヒーのリングを開けていた
「最近、仲いいな」
化学教室のいつもの指定席と化した席で
ゴハンを口に運んでると先生が徐に
そう呟いた
「え?フツーじゃない?」
「ふーん、向こうはどうだろうな」
意外な反応にちょっと驚く
「裄埜か。アイツ教師連中にウケいいぜ
女にもモテてんなぁ
たまーに告られてんの見かける」
「あー言われてみればそんな感じだよね
爽やかだし、スポーツマンで
嫌味言わないし」
先生は、しきりに頷く私を
冷ややかな視線で
一瞥するといつもの分厚い本を
ペラペラとめくり出した
「俺とは真逆の人間だ」
「あ、自分で性格悪いの
自覚してるんだ?」
「…………」
からかう私を軽くスルー
「ツラは負けてないけどな」
笑いかけて、先生を凝視してしまった
さっきから……らしくない
「もしかして……拗ねてる」
「お前、目まで悪くなったのか」
「”まで”って何っ!?」
今、ヤレヤレって手を挙げて
自覚無いのかって
溜息つきましたか?
「何時から名前で呼ばれてる?」
いきなり話の矛先を変えられた
「え、いつからかな
あんまり気にしてなかった」
「フツー男が女の名前を呼ぶって事は
ソイツを特別視している
主張みたいなモンだろ
それだけ他の女と区別してるし
他の男に向けて牽制を
かけている意味もある」
「そうなの?」
「らしい」
らしい??
「先生も女の子を名前で
呼んだりしたの?」
「まさか」
……だよね
「でも先生、そういう恋愛系の話
できるんですねちょっと意外」
「イヤ。此処に書いてある事例に
当てはまってるから
そう言っただけだ」
「事例?一体どんな本
今読んでるんですか?」
チラッと見せてくれた
その本のタイトルは
『現代における人間と
オラウータンの相対的なる進化と
その感情及び行動パターン
についての考察』
……本当に
色んなジャンル読んでるんだね、先生
「あ。そういえばもともとお前ら
付き合ってるんだっけ」
「はぁ?」
「以前、職員室で
お前ら盛り上がってたろ」
「ちがっっ!!」
ここは全力で否定したいところ
てか、あの時先生聞いてたんだ
「まぁ、どっちでもいいけど」
良く……無いし
バカ。