エゴイスト・マージ
緒方
「最近調子はどう?」
その日私は定期検診と称して
緒方クリニックに来ていた
小学校からのかかりつけで
以前は院長先生だったけど
今はその娘さんである
女医緒方先生こと
通称”おーちゃん”が
私の担当医になっていた
おーちゃんは女の私から見ても
美人でやさしくって知的で……
要は私の憧れ的存在
おーちゃんは前に私の患者さん
第一号だって教えてくれたっけ
「まぁまぁかな」
「そう。良かった
倒れたりとかしてない?」
「う、うん」
先日倒れたことは内緒
おーちゃんに心配掛けたくないし
久々だったからちょっと驚いたけど
あれからは無いしね
「心配事とかあったら
遠慮なく言ってね
雨音ちゃんは私の妹みたいなもの
だから何でも相談に乗るから」
優しく微笑みかけるおーちゃんに
私は全幅の信頼を寄せていた
「うん。ありがとう」
昔からの知り合いでもあり
最近では
私も医者というよりは
お姉さんとして見てる部分が
大きくなっていった
「今日、学校でどんな事あった?」
とか
「今日、面白い事あったのよ」
とか
更には試験のヤマかけ
してもらったり等々
お互いに他愛もない話をするのが
楽しくて、何かと理由をつけては
クリニックへ顔を出していた
「おーちゃんでも恋愛とかで悩む?」
「悩むわよ」
即答されてしまった
だって、綺麗で頭も良くって
きっと何もっていったら言い過ぎかもしれないけど
欠点なんてまるで見付からない完璧な人だと思っていたし
私が男の人だったらおーちゃんみたいな人を
好きになるかもしれないのに
「悩んでるの?雨音ちゃん」
「うん……まぁ」
「ああ。でも、雨音ちゃんは
これから色々素敵な出会いあるわよ
もっと気楽に行かない?
私は、学生の時当たって
砕けろだったわよ相手に好きな人が
いるって知ってても」
「恋愛はした回数とかで経験値は
上がらないし
相手が違えば、
やり方も考え方も変わっていく
だからまた、ふりだし
経験は生かせる時もあれば
かえって邪魔な時もある
でも一から恋愛出来るから
それも楽しい、とかね」
「おーちゃんも?」
「私は、今まで一人しか
好きになったことがないから
あんまりそっち面では
参考にならないかな」
「わぁ~どんな?どんな人?」
こんな素敵な先生が想い続ける人って
どんな人か興味が湧く
「酷い人よ」
「酷い……って恋人なのに」
「ふふ。残念ながら片思い
私じゃなく別な人が好きなのよ
期待さえ持たせてはくれないの
彼、とても純粋で
……本当傍から見ていて
辛くなるくらい純粋な人
あの人もまた報われない
恋をしているわ」