エゴイスト・マージ
『先生と恋人同士』
……て、全然実感が無いんですけど
無いんですけど!
必死の提案から何か変わったのかと
”何も”だった
想定の範囲内だけどね
先生は相変わらず分厚い本を
捲ってるだけだし
私はそんな先生をチラチラ盗み見しては
これまた受験勉強をしている
あの決死の告白は何だったんだろう
あの緊張感と葛藤の日々を返して
頂きたいくらいだ
外に目を向けると
カップルらしき下級生が
これでもかってくらい
イチャイチャしてる
そんなに大声で呼び合わなくったって
近いんだから聞こえるだろうに
幸せそう
あれが本来の恋人の姿なんだと思う
イミテーションの私達とは大違い
「…………」
名前で呼び合ってる姿が
本当に羨ましい
「いいなぁ~名前でとか」
心の声がついポロリと口に出てしまった
「呼べば良いだろ、俺を」
「な、名前!?」
恐れ多いんですけど
「曲りなりとも、恋人だろ?
ごっこだけどな」
もう……分かってるってのに
そんなに”ごっこ”の部分だけ
強調しなくっても
「知ってんだろ?」
「うん……」
「どうぞ」
黒板に寄り掛かって、両腕を組んだまま
私を見下ろすようにニヤニヤしている
いつもなら物言いがつく態度だけど
今の私のはその余裕は無い
「せ、いさん」
いきなりそんなこと言われても
恥ずかしくって
小さな声を出すのがやっと
なのに、返事はない
相変わらずニヤニヤしてるだけ
「せ……醒さん」
無視
「醒さん!」
何で返事しないのよ
メッチャ勇気振り絞って
言ってるのに
だいたい先生から言い出したくせに
ム・カ・ツ・ク!!
「醒っ!!!!」
「……何?雨音」
口角を上げて笑った
この時の先生の顔を声を
生涯忘れることはないかもしれない
バカ……
人の気も知らないで
そんな声で人の名前呼ばないで
不意打ち過ぎるよ、先生
自分の名前を呼ばれて
こんなに胸が締め付けられるコトは
初めてだった
こんなに恥ずかしくて
そして、こんなに……嬉しかった事は
初めてだった
私、この人が好き
この人がどうしようもないくらい好き
初めて感じる襲いかかるようか感覚に
私は飲み込まれてまた泣きそうになった
それから私は二人の時だけ
先生を名前で呼ぶことになった
先生が私の名前を呼んだのは
たった一度のあの一回きり
きっと先生にとっては単なる
暇つぶしの遊びの一環でしかない証
今更、改めて認識することではない
私一人が舞い上がってる
それでも、二人だけの秘密で
あるって事だけは
紛れも無い真実
私以外に先生を名前で呼ぶ人は
この学校には誰もいない
それが今の私の唯一だった
……て、全然実感が無いんですけど
無いんですけど!
必死の提案から何か変わったのかと
”何も”だった
想定の範囲内だけどね
先生は相変わらず分厚い本を
捲ってるだけだし
私はそんな先生をチラチラ盗み見しては
これまた受験勉強をしている
あの決死の告白は何だったんだろう
あの緊張感と葛藤の日々を返して
頂きたいくらいだ
外に目を向けると
カップルらしき下級生が
これでもかってくらい
イチャイチャしてる
そんなに大声で呼び合わなくったって
近いんだから聞こえるだろうに
幸せそう
あれが本来の恋人の姿なんだと思う
イミテーションの私達とは大違い
「…………」
名前で呼び合ってる姿が
本当に羨ましい
「いいなぁ~名前でとか」
心の声がついポロリと口に出てしまった
「呼べば良いだろ、俺を」
「な、名前!?」
恐れ多いんですけど
「曲りなりとも、恋人だろ?
ごっこだけどな」
もう……分かってるってのに
そんなに”ごっこ”の部分だけ
強調しなくっても
「知ってんだろ?」
「うん……」
「どうぞ」
黒板に寄り掛かって、両腕を組んだまま
私を見下ろすようにニヤニヤしている
いつもなら物言いがつく態度だけど
今の私のはその余裕は無い
「せ、いさん」
いきなりそんなこと言われても
恥ずかしくって
小さな声を出すのがやっと
なのに、返事はない
相変わらずニヤニヤしてるだけ
「せ……醒さん」
無視
「醒さん!」
何で返事しないのよ
メッチャ勇気振り絞って
言ってるのに
だいたい先生から言い出したくせに
ム・カ・ツ・ク!!
「醒っ!!!!」
「……何?雨音」
口角を上げて笑った
この時の先生の顔を声を
生涯忘れることはないかもしれない
バカ……
人の気も知らないで
そんな声で人の名前呼ばないで
不意打ち過ぎるよ、先生
自分の名前を呼ばれて
こんなに胸が締め付けられるコトは
初めてだった
こんなに恥ずかしくて
そして、こんなに……嬉しかった事は
初めてだった
私、この人が好き
この人がどうしようもないくらい好き
初めて感じる襲いかかるようか感覚に
私は飲み込まれてまた泣きそうになった
それから私は二人の時だけ
先生を名前で呼ぶことになった
先生が私の名前を呼んだのは
たった一度のあの一回きり
きっと先生にとっては単なる
暇つぶしの遊びの一環でしかない証
今更、改めて認識することではない
私一人が舞い上がってる
それでも、二人だけの秘密で
あるって事だけは
紛れも無い真実
私以外に先生を名前で呼ぶ人は
この学校には誰もいない
それが今の私の唯一だった