エゴイスト・マージ
あの後、裄埜君が家まで送るよって
言葉を必死で断って家に帰った

家に帰っても思い出すだけで
恥ずかしくってなかなか夜眠れなかった

裄埜君にとってどうってないこと
なのかもしれないけど私は
こういうことあんまり慣れてないから
どう対処していいのか分からない

裄埜君が何を考えて行動しているのか
イマイチ掴めずにいた



――でも、ちゃんと断れて良かった



明日も先生を誘おう

無駄に終わるかもしれないけど
まだ日にちはあるし頑張ろうっと




翌日、お弁当を広げて
待ち構えてると先生の方から

花火に付き合ってもいいと
言ってくれた

どういう心境の変化だろうか

表情を見る限り乗り気でないご様子

それでもOKと了承を得たことには
変わりない

どうしょうメチャ嬉しいんだけど


家に帰ってお母さんに浴衣の着付けを
手伝ってもらってアレコレしている
うちに時間ギリギリになってしまった

折角お風呂に入ってきたのに
また汗をかいてしまった

やっと着いた所で、先生は
冷ややかな目で見下ろしてくるだけ

案の定、浴衣の件には一切触れてこなかった

期待してなかったけど
ちょっと悲しい



学校で待ち合わせをして
それから会場へ……と
思っていたのに

先生は学校の中へと入っていこうとした

「そっち学校。会場あっちだよ?」

「行くわけ無いだろう、人混みは嫌いだ」


ここまで来て、何ソレ

「付いて来い」

くるりと背を向けて先生はスタスタ
屋上の方へ歩き出した

って、セキュリティとか
大丈夫なのかな?

夜の学校に入って、いや先生同伴だから
大丈夫なんだけ?え?え?

そしたらまた冷たい目で
今だけ切って貰ってるって教えてくれた

やっぱりこういう、ソツない所が
同級生にはない大人の人っていうか
そう思うと急に前を行く
後ろ姿にドキドキしていた




いざ花火が始まると
本当に綺麗で、何より先生と
その時間を共有してることが
嬉しかった

とても大切で、特別で
何にも代えられない貴重な時間だった




始まってしばらく経った頃
先生は徐に私の腕を取って
学校を出た


何処に行くいのかと思ったその方向は
あんなに嫌がっていた花火会場

先生はケータイで何処かに電話した後
道端の露天で変なお面を買って


なんかのキャラクターかな?
つけている先生とのギャップが
……ウケた


笑ってる私に不機嫌そうな口調で
言っても、表情は見えないし
怒られてる感じが全くしなかった

よろけそうになった時も
すぐに手を差し出してくれた



私の為に此処に連れてきてくれた
そう思ってもいい?

ね?いいよね?今日だけ

例え先生に特別な意味が
なかったとしても

――こんな日だから思いたかった



「ありがとう先生、私

本気で貴方が大好きです」


最後の方は意識して
小さい声で言ったけれど

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