エゴイスト・マージ
裄埜


次、化学か……

黒板に書かれた”化学室に移動”
の白い文字をみて
気だるく溜息を付く。

今学期に入ってから隣のクラスと合同で
授業をすることになった。

理系と文系の比率が
1:2の割合になっている為、
文系がこの教室と隣の教室でそれぞれ
英語と国文に分かれ
更に人数の少ない理系組は、
わざわざ離れた
化学室での授業となっていた。

行きたくないな。

昨日の今日だからといって
別に何があったわけでもないけど、
何となく三塚の顔を
見るのが気が進まないだけ。

だからといってそんな理由で
サボるわけにもいかず、
渋々シナップスを強引に繋げて
化学室へと向かわせた。


授業中、ついつい無意識に
三塚を目で追ってしまう。


昨日のアレって付き合ってるって事?

あの後、二人で何処かにいったのかな……

「月島、ここの化学公式
何の法則か分かる?」

「え?えと……」

いきなりふられて
しどろもどろになってると、
通り道を挟んだ隣の席から
丸められた小さい紙が飛んできた。

少しだけ振り向くとその人物は
確かの隣のクラスの……誰だっけ……?

私が戸惑ってる私に
ジェスチャーだけで中を
見ろっていってるみたいで。

「……ゲーリュサック」

「正解。裄埜~~教える時は
もっとさり気無くね」

三塚のおどけた注意に、
教室が一斉に沸いたとこで
タイミング良くチャイムが鳴った。

「今日はここまで試験近いから
皆勉学に励むように」

そういって三塚が
教室を出ていってしまった。



……一応助けられた?

よく分からないけど、
お礼は言っとくべきだよね。


教室を出て渡り廊下の
前を行く彼を捕まえる。

「あの、さっきはありがとう」

声を掛けられた彼は
歯をチラリと覗かせて笑顔をみせた。


「いや、こっちこそ
バレちゃってゴメン」

うわ……初めて話したけど
なんだか爽やか系だ、この人。


良くありがちな
恩着せがましさは皆無で、
、本当に申し訳なさそうに
謝ってくる様にちょっとだけ
親しみを覚えてたから。

つい、

「私がぼんやりしてるのが
悪いんだから気にしないで」

彼は一瞬、不思議そうな顔を見せて、

「珍しいな、いっつも
即答で答えてるのにって
思って咄嗟だよ」

気にしないで、と言って
その爽やか系の彼は行ってしまった。






「昨日、裄埜くんに助けて
貰ったんだって?」

唐突に掴まった、1年の時からずっと
同じクラスメイトの玲ちゃんが
開口一番そう言って詰め寄ってきた。


「え?何が?」

「裄埜くんだよ!
3組の裄埜 光。いいな~羨ましいっ!」

すごい剣幕で捲し立てられて
思わず引いてしまう。

「う……うん?
で、でも玲ちゃんって裄埜君の事
好きなんだっけ?別の人じゃなかった?」

すると玲ちゃんは、
外人みたいな大げさな仕草で
両手を横に振って、

「わかってないね~雨音は。

本命は別。裄埜君は観賞用。
現実的にムリだから、
夢はみない事にしてるの」

「私だって別にちょっと教えて
貰っただけで別に何もないよ」

「な~んだ。
まぁ確かに彼、誰にでも優しいしね。
超カッコイイけどアレは
彼女になったら大変だよ~きっと」

私の言葉に妙に納得したようで、
うんうんと首を今度は縦に振りながら
自分の席へと戻っていった。

”誰にでもやさしい”

その言葉は、私の中で別の人物を
思い出させていた。

やさしいって何だろう?

言葉?雰囲気?

それとも単にそう思えるだけ?


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