エゴイスト・マージ

game?


なんだというのか?


正直、段々面倒臭くなっていた。



他の生徒とみたいに近づいてくるわけでも
なかったくせにやたら最近目に付く。

しかも間が悪い時に限って現れる。

これで何度目だ?


“月島 雨音”


困ったお子様だ。

今更、取り繕ったとこで意味がないか。

いっそ何もかもバラしてみようかとさえ思う。

どんな顔をするだろう?

いや……

それはそれで案外と面白そうだ。



知れば怖がってもう近づいては来まい。

他の奴にも言うかもしれないが、
別にそれも止めようとも思わない。

他人が俺をどういう目で見るかなど
それこそどうでもいい。


さて、一体どんな反応をみせてくれる?


近づいて、殊更何気なく俺の過去を
サラリと話してみた。


みるみる顔色が変わっていくのが
面白いように見て取れた。

思った通りだ、あんまり通り過ぎて
笑いそうになるのを抑えるのがやっとだ。


他愛もない。





の、筈だった。


「……?」

ソイツは目の前で静かに涙を流していた。

言葉を発するわけでもなく
ただ涙が頬を伝う。

それは今まで見てきた、憐み、蔑みとは
違う何か。

それ以上をどう表現していいのか、
俺の感覚には持ち合わせていないモノで
この女の意図が分からず、
得体のしれない奇妙な感じが
居心地を悪くさせる。

嫌な感覚だった。

(なんだ?コイツ)


そしてその嫌な予感ほど
必ずしも当たるもので
当初の俺の思惑は完全に崩れた。

このやっかいなお子様は気味悪がって
来なくなるどころか、
何故かそれから弁当を持参して
昼休みに日参するという暴挙に
出られる羽目となってしまった。


しかもその名目たるや、

『先生を見張るため』だと。

俺はこのコイツの言動の
意味を解するのに
100年は有するに違いない。





……いや

果たしてそれで足りるだろうか?





とは言っても別段何かしてくることはなく、
邪魔されるといえば読書くらいだった。

もう一つの自らが建前と公言して憚らない。
勉強を学ぶ一生徒との方を専ら行使中だ。


実際、俺は言い寄ってくる女との付き合いも続け、
別れる時もその姿を終ぞ見掛けはしなかった。

どこが”見張る”なのか謎は深まるばかりだが
所詮、子供の戯言とはそんなもんだろう。




所が、

『私と恋愛(ゲーム)しよ?』

いつもコイツの発想は俺の遥か
斜め上を行く。

やはり、お子様の考えることは分からない
それとも、コイツが単に独特なのか。


目的は何だというんだ?
皆目見当がつかない。


今までにこんな得体のしれない
生き物と遭遇したのは初めて。


俺が受けないと分かると
効力の全くない脅しまでかけてきやがった。

ここまでくると
呆れる反面、奇妙な興味が湧く。



”ごっこ”ね……


良いだろう、乗ってやる。



さて、

その”ごっこ”とやらは

どこまで実践可能なのか
教えて頂くとしましょうか?




女というのは恋愛とか恋というものに
なにかしらの意味を持つものらしい。


俺はそういうのに不向きだと
いい加減気が付くと思うのだが、
周りをウロついている割には
抜けてるな、コイツ。

頭は……そう悪くない。

前に受けている成績一覧表を見ながら
確認する。

いつも上位30位くらいにはつけてる。

(ふーん……物理が壊滅的に悪いな。
これで全体の分を損してるのか)

じゃ鈍いだけか、或いはマゾか。



……馬鹿馬鹿しい。




確かに

暇潰しの一環というからには
俺もそれなりに愉しまないと。

が……
子供に手を出す気にもならない。

当分はアイツに合わせて様子を見るか?




ある日

他の名前を呼んでる本物のカップルをみて
羨ましそうに、いいなぁとか言いだした。

そんなに呼びたいものか?
たかだか名前を。


そのくせ、言ったら言ったで
俺の顔をみて固まってしまった。


前にみたオラウータンでの考察に
こういう事までは書いてなかったな、
と思い出しながら。

いや、まてよ確かあの本続編が図書館で入荷
していた筈だったっけ?

無印にはなかったが、続編には
その辺の所の記述が追記されてる
可能性もあるな。


にしても、
大分コイツでの遊び方に慣れてきた。



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