エゴイスト・マージ
花火
「え?え?」
「花火だ、花火」
前からずっと耳が腐るほど
お前が言い続けていた例のアレだよアレ。
「行くのか行かないのか3秒以内に返事しろ」
花火なんて全く興味ない
単なる科学反応だろう。
ここで本を読むか、実験とかやっていた方が
俺的には余程有益だというのに。
連れて行かなきゃずっとネチネチ言いかねない。
行くにも行かなくてもメンドクサイ。
「3・2・1」
「いくー!!」
「残念。時間切れだ」
「えええ!先生今マッハで数えたじゃん。ズルイ」
月島の抗議は無視し
教科書を揃えて職員室に戻るべく教室を後にする。
廊下を数歩進んで足を止め、部屋を覗き込むと
ガックリと項垂れた月島が目に入った。
「土曜、19時半、学校裏門」
そう告げると、月島の顔が
みるみる花が咲くように明るくなっていく。
―――単純なヤツ。
「早すぎー!」
裏門の前に立っていた俺を見つけ開口一番
月島が驚いて走ってきた。
「何キッカリに来てるんだ、お前。
5分前行動だっていつも校長が
日々のたまってるだろーが」
「今、学校じゃないし」
「いや、お前の左足を見ろ。既に学校の敷地に
踏み入れてるだろう。その時点で学校ルールが
適応されてるんだ、知らなかったのか?」
「マジでっ!?」
コイツ馬鹿だ。
スタスタ学校に入ろうとする俺に
月島のアレ?という言葉が漏れた。
「そっち学校。会場あっちだよ?」
「行くわけ無いだろう、人混みは嫌いだ」
「え―――!!!?」
デカイ声で叫ぶその格好ときたら、
いかにも若い女が好みそうな
赤い金魚がプリントされた、
浴衣姿と、走ってきた為に頬が紅潮させた顔。
オマケに石鹸の匂いまでさせて……
こんなナリをしている姿を
某ネットなんかで検索したら=私を襲って下さいと
変換されることだろう
不特定多数の男が蠢く会場に連れて行くのは
実に面倒臭い。
まだ後ろで文句をたれるバカを振り返った。
「付いて来い」
屋上に上がろうとして月島はその動きを制してきた。
「どした?」
「先生、夜の学校って
セキュリティ入ってるんじゃないの?
勝手に屋上に出たりしたらマズくない?」
「で?」
「で、って……」
「俺がそんなヘマすると思うか?
化学の教師なんだぜ、今日は珍しい天体が
見れるからって、校長に頼んで
特別に切って貰ってる。
後で俺が警備会社に連絡入れて起動させる約束でな」
「……どんな星が見れるの?」
「そのうち分るさ」
ドアを開けると昼まで小雨が降っていて
地面が濡れたせいか、いつもより少しだけ
ひんやりとした風が髪を撫でる。
目が慣れてくるとそこまで
真っ暗闇でない様に思えてくる。