エゴイスト・マージ
この女は感情を露骨に表に出す方では無いが
目だけはどうしようもないらしい。
そういえば、高校の時も
こんな目で俺をよく見てたな。
「言いたいことはそれだけ、邪魔したわね」
ああ、それで思い出した。
もっと露骨に感情、表す事があるだったっけ。
「君にとって、僕がってのが
かえって都合がいいんじゃない?」
「……どういう意味?」
「深読みは、君の得意分野ではなかったかな?」
「意外ね。
貴方はそういう感情は欠落してるんだと
思ってた。それとも単に
状況判断してるだけかしら?」
ウィークポイントなんて持つもんじゃない、
相手に利用されるのがオチだ。
「アイツ、クライアントに既に報告済だから
予定変更になったって、さっきまで
此処に来てたけど君には連絡、無かった?」
その言葉に、思ったとおり
一瞬戸惑ったように見えたが
すぐに何もなかったように戻したところは
流石とでも言っておこうか?
「わざわざ、報告ありがとう。
用は終わったから帰るわ」
(……ヤレヤレ)
出て行った扉を見て知らず溜息が出た。
今言った言葉は文字通り、状況判断だ
そこにどんな感情が介在するかなど
俺の関心ごとではない。
にしても
わざわざ、こんなくだらない事を言いに来たのか。
余程、クリニックは暇と見える。
或いは何か意図があっての事か?
どちらにせよ俺にとって、どうでもいいという
位置づけは変わらなかった。
だが分かったこともある
あの女が躍起になる理由。
あの月島の言動が全ての事柄を繋げた。
俺の仮説が正しいなら、
母親は娘を庇い、その娘は母を守ろうとしている。
月島は母親を思うばかりに無理やり
過去を封印しようと見せ掛けているから
どうしても限界がある。
その歪みがアイツの意思に反して
過去がフラッシュバックした時に、
あんな風に倒れたり
意識や記憶を飛ばすのだとしたら。
フォローする人間が必要だ。
……成程、そこで緒方の登場か。
治療と称し、ある時は母親の依頼を
受けた医師として、
同時に月島の願いに協力していたのだ。
つまり、あの女だけが
最初から全てを知っていたのだ。
――俺を近づけたくないだろうさ。
俺の過去を
散々知ってるんだからな。
月島。
アイツは自身のコントロールさえつかないクセに
俺に好きだと言う。
俺を通して自身を見ているのか、
或いは酷く共感してる所以か
無自覚にそれをぶつけてきてる。
案外、恋だの愛だの分かっていないのは
アイツも、かもしれない。
でなければ、
いくら鈍いお前でも
もう気が付くだろう、俺では無理だと。
一体、俺に何を期待する?
利用か?
それなら乗らなくもない。
それ以外の俺の使い道はない無いはずだ。
助けるつもりは無いから、勝手に
俺を使え。
それでいいだろう?
俺は誰もいらない。
今までもこれからも、ずっと――