エゴイスト・マージ
二日後、教室での呼び出しに正直行くか迷った。
でも、このままでいいんだろうか?
と散々考えて行くことを決めた。
少しホッとした表情を浮かべた裄埜君を見て
自分の判断は間違ってなかったと安心した。
それでも今までみたいに、近くには寄れず
微妙な距離を取る。
裄埜君も無理にそれを詰めることはしなかった。
「この間はゴメン。
謝って済むことではないけど
自分でもまさかあんな行動に
出るとは思わなかった。
二度としないと誓う…同意無しではね」
「って……反省してる?」
最後の一言に裄埜君らしさを感じで
怒る所なのにちょっと笑ってしまいそうになる。
何でだろう、裄埜君には弱い
他の人だったら許せない事も
突き通せない何かがある。
その理由は分からないけど。
「してるよ。雨音は大事だから」
「……」
こういう言葉を臆面もなく口に出せるあたり
言い慣れてるんだろうと思った。
そして冗談めいた言い方じゃなく
もう一度、
「もう口をきいてくれないと思ったよ。
ありがとう」
と言い直した。
「うん」
「やっぱり……」
何だろう?
一瞬の間があった。
「え?」
本当は声にするつもりがなっかたようで
私が聞き返すと、驚いたように
目線を逸した。
こんな裄埜君も初めて見た。
迷っている様子で随分考え込んだ後、
「三塚センセイは
止めておいた方が良いと思う」
何故かニッコリ笑ってそう言った。
裄埜君は一体どこまで
先生の事を知ってるんだろう?
多分、あの性格の裏を見せてるのは
蔦さんの言い方からしてこの学校では
私だけだと思うんだけど……
あの日、先生は何て言っていたのか、
その後どうなったのかとか聞きたかったけど
口にすることを躊躇ってしまった。
それは答えが怖かったのかもしれない。
「三塚先生の事キライなの?」
「うん」
凄く爽やかに、清々しく
そして、キッパリ答えられてしまった。
先生は先生のくせにそこらの生徒よりモテるし
その点で男子の反感を買う恐れは
あるかもだけど、こと裄埜君には
当てはまらない気がする。
裄埜君は引けを取らないくらい人気があるし。
「雨音はどこがいいの?」
「えっと……」
どこだろう?一番答えにくい質問だよ、ソレ。
「まぁ、だろうね」
何だろう、口調とか全く違うのに
誰かを思い出す。
と、いきなり背後のドアがガチャリと
勢いよく開いた。
滅多に人のこない此処は一度、裄埜君と
遭遇して以来、度々裄埜君を
見かけることはあっても、他の人は一切
見たことがなかったこともあって、
かなりその音自体に驚いてしまった。
「おーいたいた!ユキ、今日のミーティング
長いらしいから、授業終わったら早く来いって。
伝えたからな」
言葉と同様、彼の額には
だいぶ探しまくっていたと思わせる程の
汗が浮かんでいた。
「ああ。サンキュ、悪かったな」
同じ部の人だろう男子は、そう伝言終わると
私をチラリと見て、邪魔したなと
言い残して再びドアを
乱暴に閉めて行ってしまった。
「そういえば、今度の日曜日、
試合だったよね?出るんでしょ」
「いや。出れない、かな。
日曜はちょっと墓参りに行くから」
「あ。お母さんの命日?
お父さんと一緒に?」
「いや、あの人は別の日に行くんじゃないかな」
あの人?
私が変な顔をしたせいか、裄埜君は
自分の失言に気が付いた様で、
しまったという表情に変わった。
それでも暫くしてポツリと、
「いや、話しておいた方がいいかな」
そう前置きをして話しだした。
「前にうちのお袋の話したの覚えてる?」
「たしか病気で」
「本当は自殺なんだ」
あまりに軽く言われた台詞に絶句した。
きっと何不自由なく恵まれた家庭で育ったの
だろうと思わせる裄埜君からの
それは思いがけない言葉だった。
「ホント……ゴメン。
俺も昔はそう思ってた時期があった。
言われた方も困るだろ?
だから今まで誰にもそう言って
通してきた」
私が言葉に詰まったのに気が付いて
裄埜君は気遣うようにフォローする。
それでも、
どう相槌を打っていいのか分らなくって
ただ裄埜君の言葉に耳を傾けるしかない。
「知ったのは偶然だけどやっぱショックだった。
なんで自殺なんかって。
凄くフツーの家庭で、そんなそぶり
無かったのに。
中学の時さ、お袋の日記めいたもの発見してね。
見るか見ないか随分迷ったけど
結局真相を知りたくって」
「見たの?」
「……うん」
「うちの両親、
お見合い結婚だったって割には
仲良さげで喧嘩したトコなんて
見たことも無かった。
取り分けお袋は親父の事
かなり好きだったみたいで、
よくそんなことを書いてあったよ」
だけど、と言葉を区切って
裄埜君は空を見上げた。
「どうやら親父には結婚前から
好きな人がいたらしくって、
無理やり別れさせられて
お袋と結婚したみたいなんだ。
でもね結局は、親父はお袋と結婚してからも
その人の事が忘れられずにいたのさ。
お袋にしても
薄々感じ取ってたんだろう親父の中に
自分以外の誰かの存在を。
今にして思えば思い当たる節があるんだ。
俺の前ではいつも笑っていたお袋が
時々親父の写真見て泣いていたのを
おぼろげに覚えてる」
そして、彼はそれ以上何も言わなかった。
でも、このままでいいんだろうか?
と散々考えて行くことを決めた。
少しホッとした表情を浮かべた裄埜君を見て
自分の判断は間違ってなかったと安心した。
それでも今までみたいに、近くには寄れず
微妙な距離を取る。
裄埜君も無理にそれを詰めることはしなかった。
「この間はゴメン。
謝って済むことではないけど
自分でもまさかあんな行動に
出るとは思わなかった。
二度としないと誓う…同意無しではね」
「って……反省してる?」
最後の一言に裄埜君らしさを感じで
怒る所なのにちょっと笑ってしまいそうになる。
何でだろう、裄埜君には弱い
他の人だったら許せない事も
突き通せない何かがある。
その理由は分からないけど。
「してるよ。雨音は大事だから」
「……」
こういう言葉を臆面もなく口に出せるあたり
言い慣れてるんだろうと思った。
そして冗談めいた言い方じゃなく
もう一度、
「もう口をきいてくれないと思ったよ。
ありがとう」
と言い直した。
「うん」
「やっぱり……」
何だろう?
一瞬の間があった。
「え?」
本当は声にするつもりがなっかたようで
私が聞き返すと、驚いたように
目線を逸した。
こんな裄埜君も初めて見た。
迷っている様子で随分考え込んだ後、
「三塚センセイは
止めておいた方が良いと思う」
何故かニッコリ笑ってそう言った。
裄埜君は一体どこまで
先生の事を知ってるんだろう?
多分、あの性格の裏を見せてるのは
蔦さんの言い方からしてこの学校では
私だけだと思うんだけど……
あの日、先生は何て言っていたのか、
その後どうなったのかとか聞きたかったけど
口にすることを躊躇ってしまった。
それは答えが怖かったのかもしれない。
「三塚先生の事キライなの?」
「うん」
凄く爽やかに、清々しく
そして、キッパリ答えられてしまった。
先生は先生のくせにそこらの生徒よりモテるし
その点で男子の反感を買う恐れは
あるかもだけど、こと裄埜君には
当てはまらない気がする。
裄埜君は引けを取らないくらい人気があるし。
「雨音はどこがいいの?」
「えっと……」
どこだろう?一番答えにくい質問だよ、ソレ。
「まぁ、だろうね」
何だろう、口調とか全く違うのに
誰かを思い出す。
と、いきなり背後のドアがガチャリと
勢いよく開いた。
滅多に人のこない此処は一度、裄埜君と
遭遇して以来、度々裄埜君を
見かけることはあっても、他の人は一切
見たことがなかったこともあって、
かなりその音自体に驚いてしまった。
「おーいたいた!ユキ、今日のミーティング
長いらしいから、授業終わったら早く来いって。
伝えたからな」
言葉と同様、彼の額には
だいぶ探しまくっていたと思わせる程の
汗が浮かんでいた。
「ああ。サンキュ、悪かったな」
同じ部の人だろう男子は、そう伝言終わると
私をチラリと見て、邪魔したなと
言い残して再びドアを
乱暴に閉めて行ってしまった。
「そういえば、今度の日曜日、
試合だったよね?出るんでしょ」
「いや。出れない、かな。
日曜はちょっと墓参りに行くから」
「あ。お母さんの命日?
お父さんと一緒に?」
「いや、あの人は別の日に行くんじゃないかな」
あの人?
私が変な顔をしたせいか、裄埜君は
自分の失言に気が付いた様で、
しまったという表情に変わった。
それでも暫くしてポツリと、
「いや、話しておいた方がいいかな」
そう前置きをして話しだした。
「前にうちのお袋の話したの覚えてる?」
「たしか病気で」
「本当は自殺なんだ」
あまりに軽く言われた台詞に絶句した。
きっと何不自由なく恵まれた家庭で育ったの
だろうと思わせる裄埜君からの
それは思いがけない言葉だった。
「ホント……ゴメン。
俺も昔はそう思ってた時期があった。
言われた方も困るだろ?
だから今まで誰にもそう言って
通してきた」
私が言葉に詰まったのに気が付いて
裄埜君は気遣うようにフォローする。
それでも、
どう相槌を打っていいのか分らなくって
ただ裄埜君の言葉に耳を傾けるしかない。
「知ったのは偶然だけどやっぱショックだった。
なんで自殺なんかって。
凄くフツーの家庭で、そんなそぶり
無かったのに。
中学の時さ、お袋の日記めいたもの発見してね。
見るか見ないか随分迷ったけど
結局真相を知りたくって」
「見たの?」
「……うん」
「うちの両親、
お見合い結婚だったって割には
仲良さげで喧嘩したトコなんて
見たことも無かった。
取り分けお袋は親父の事
かなり好きだったみたいで、
よくそんなことを書いてあったよ」
だけど、と言葉を区切って
裄埜君は空を見上げた。
「どうやら親父には結婚前から
好きな人がいたらしくって、
無理やり別れさせられて
お袋と結婚したみたいなんだ。
でもね結局は、親父はお袋と結婚してからも
その人の事が忘れられずにいたのさ。
お袋にしても
薄々感じ取ってたんだろう親父の中に
自分以外の誰かの存在を。
今にして思えば思い当たる節があるんだ。
俺の前ではいつも笑っていたお袋が
時々親父の写真見て泣いていたのを
おぼろげに覚えてる」
そして、彼はそれ以上何も言わなかった。