エゴイスト・マージ
不意に感じる感覚。
え?……私を、見てる?
それは自惚れじゃなく視線を確かに感じる。
そう感じるれる程の距離だから分かる。
先生が私を?
もともと他人を見てない人だけど。
一旦、先生が話す時は視線を外すことは無いから
いつも最終的には私が逸らすことになる。
今は二人しかいないんだから、単にそうなのかも。
だけどこんな風に軽口を言われるわけでも無く
見られてるていうのが、気恥ずかしい。
何で……見てんの?
完全に振り向くタイミングを逸してしまった私は
そっちに向くことも出来きず、
バカみたいに固まったまま。
(何か言ってよ)
段々この場が辛くなって俯いた。
きっと顔は真っ赤なはずだ。
(緊張するよ、先生っっ)
「さて、質問。
Q1 今すぐ帰りたい。
Q2 俺が家に連れてきた理由を聞く。
Q3 このままずっと見つめていて欲しい。
Q4 その他イロイロ」
先生は、そんな私を見透かしたように
まるで授業中みたいな口調で
問いかけてきた。
「……に、2でお願いします」
「本当に?」
この状況を打破する為、2以外のアンサーは無い。
Q3は愚問。ましてや、Q4は何?
って突っ込める程の
余裕なんかあるはずもない。
私は俯いたまま、何度も頷く。
「じゃ、教科書開いて」
「へ?」
振り向いた瞬間、いつの間にか焦点が
定まらないほどの
距離にあった先生の顔と長い指に捕まった。
余韻だけを残してゆっくりと離れる唇。
「教科書、出せって」
先生の言動に頭が付いていかない。
「個人授業がご所望なんだろ?
今日それが出来なかったから埋め合わせだ。
それとも、何か別の理由がよかった?」
先生の含みのある言葉に気が付かないほど
私は茫然自失していた。
「今……の」
(何?)
「何だ?もう一回して欲しいのか?」
「や、ややっぱ、帰らないと」
立ち上がろうとしたその手を掴まれた。
「帰さねーよ」
「お前の家にはもう連絡している」
「え?」
「お母さんに何て言ったの?」
「……さぁ?」
ニッコリ笑う先生。
「そんなに帰りたい?」
先生が意地悪く笑う言い方に
私もつい、
「じゃ……帰……っ!」
「帰すか。バーカ」
「わっ」
今度はさっきよりも力を込めて
引き寄せられた為バランスを崩す。
背後から倒れたから、丁度先生に真後ろから
抱きしめられる感じで先生の膝に
座る形になってしまった。
心臓が急速に加速する。
「……月島」
耳元で先生の声。
「先生……?」
「重い」
「わっ!すみません」
どこうとして、もう一度先生に引き戻されて
さっきよりも強く抱きしめられた。
もう息をするのも忘れるくらい
何も考えるのもダメなくらい
先生の息遣いや熱い吐息が私の思考を奪う。
この気持ちを持ってして
どうやって意地を張り続けることが
できるっていうの。
無理だよ。
もうこれ以上は
虚勢を張れない。
「先生が好き……好き、です」
「前に聞いた」
「違う……これはゲームじゃない」
その時、一瞬だけど
先生の手が止まった。