エゴイスト・マージ
そして、いきなりそのまま床に押し倒された。
「せ……先生?」
先生は私の顔の横に両手を付き
無言で私をみた。
その双眼の対比に惹きつけられる。
ゆっくり制服のリボンを外した時
私の身体は硬直し始めた。
「っ……」
先生の手が身体に触れる度
いい知れぬ恐怖感が競り上がってきた。
「好きなら問題ないはずだろ」
辛うじて先生の低音が耳を掠める。
「まだ、だ。気を失うには早すぎるぜ」
呼吸が上手くできなくて
息が苦しい。
「ああ。それとも何、
そういうシチュエーション?」
嗜虐的な言い方に涙が出てくる
(違う……)
「それとも俺じゃ嫌か?」
(違う)
「アタシ……アタシは……」
意識を手放しかけたその時
先生は私の手を痛いくらいに
に掴んだ。
「逃げんな。知ってる、全部」
「…………え?」
その言葉は意識を強烈な勢いで
現実へと引き摺りこまれた。
「お前は、何時から」
「……最初から記憶、失くしてない」
「…………そうか」
やっぱりな、
と小さく先生の口から零れた。
「その方が良いと思ったの」
「あんなお母さんを見るくらいなら私が
覚えてないことにすれば」
目が覚めたとき幼かった私でも分かるくらい
憔悴しきった顔だった。
寝てないの?
私が泣くから?
私が嫌な事思い出させるから?
私がお母さんを苦しめてるの?
ねぇ、お母さん?
お母さん……お母さん、自分を責めないで。
お母さんはちゃんと私を守ってくれてた。
苦しかった時、いつも助けてくれた。
お母さんがだけが支えだった。
いつもいつも……
お願い、私の為にもう泣かないで。
大好きなお母さん。
思い出す。
いつも大事なことを私に教えてくれた。
『ハルちゃんだけがそれを出来なかったの』
『だから皆で笑ったの?』
『うん』
『雨音も?』
『……うん』
『どうして?』
『皆笑ったし、なんと、なく』
『そう。ハルちゃん、普段仲のいい雨音から
皆と同じ様に笑われて、悲しくなかったかな?』
『あたしは』
私はつられただけ。
ハルちゃんをバカにしたつもりはない。
そう言う前に、お母さんは優しく頭を撫でた。
『雨音は、ハルちゃん大好きだもんね。
でもね、他の人と違う事を思ってした行動でも
結果が同じなら、相手には
そう見えるかもしれない。
言葉も、同じ。
”良かったね”って笑って言われるのと
”良かったね”って怒って言われるのと
雨音だったら、どっちが好き?』
『笑って』
『うん。みんなそれは一緒よ』
『心で思ってることはね、相手には見えないの。
だから、ちゃんと気持ちが
分かってるもらえるように、
態度も言葉も大事に選んでね。
……お母さんが言ってること難しい?』
当時、八歳だった私。
この時の私はちゃんと
理解出来ていたわけじゃない。
それでも、お母さんの言わんとしてることは
感覚として分かったのだと思う。
お母さん私の前に膝を折り、
両手で私の両頬を包み込み
穏やかに笑った。
『ハルちゃんはね、もっと雨音や他の
皆が出来ないモノが得意なのかもしれないね』
『ホント?』
お母さんは頷いた。
『きっとね。人はねそれぞれ得意なもの
不得意なものがあるの。
雨音、跳び箱得意?』
私は首を何度も横に振った。
『ふふ。それと一緒かな。
それにね、皆、その人しか出来ない
特別な力があるのよ』
『雨音も?』
『ちゃんとあるわ』
『何?』
『それは自分で見付けるの。
あ、もしかしたら将来、雨音が一番大事だと
思った人から教えて貰えるかもね』
『お母さんが一番好き、大事!』
『今はね。でも何時かは二番目になる
その時まで、内緒』
『分かった。今度ハルちゃんが出来なかったら
雨音も出来るまで一緒にやる』
そう言った私を
お母さんは黙って抱きしめた。
いつも色んな大切なことを身をもって
接して、教えてくれた人。
――悲しませたくなかった。
「だから……それから、何度も色んな人と
付き合おうとした。
ちゃんと恋愛して私が幸せそうに
してたらきっとお母さんはって
安心させる為にも人を好きになりたかった。
でも……全然ダメで」
今まで自分の中で封印してきたものが
零れ落ちる。
「気持ち悪い、よね……私」
先生に知られていたというのが
恥ずかしくってたまらなかった。
知られたくなかった。
出来れば
ずっと隠しておきたかった。
今までもずっとそうしてきたように。
「せ……先生?」
先生は私の顔の横に両手を付き
無言で私をみた。
その双眼の対比に惹きつけられる。
ゆっくり制服のリボンを外した時
私の身体は硬直し始めた。
「っ……」
先生の手が身体に触れる度
いい知れぬ恐怖感が競り上がってきた。
「好きなら問題ないはずだろ」
辛うじて先生の低音が耳を掠める。
「まだ、だ。気を失うには早すぎるぜ」
呼吸が上手くできなくて
息が苦しい。
「ああ。それとも何、
そういうシチュエーション?」
嗜虐的な言い方に涙が出てくる
(違う……)
「それとも俺じゃ嫌か?」
(違う)
「アタシ……アタシは……」
意識を手放しかけたその時
先生は私の手を痛いくらいに
に掴んだ。
「逃げんな。知ってる、全部」
「…………え?」
その言葉は意識を強烈な勢いで
現実へと引き摺りこまれた。
「お前は、何時から」
「……最初から記憶、失くしてない」
「…………そうか」
やっぱりな、
と小さく先生の口から零れた。
「その方が良いと思ったの」
「あんなお母さんを見るくらいなら私が
覚えてないことにすれば」
目が覚めたとき幼かった私でも分かるくらい
憔悴しきった顔だった。
寝てないの?
私が泣くから?
私が嫌な事思い出させるから?
私がお母さんを苦しめてるの?
ねぇ、お母さん?
お母さん……お母さん、自分を責めないで。
お母さんはちゃんと私を守ってくれてた。
苦しかった時、いつも助けてくれた。
お母さんがだけが支えだった。
いつもいつも……
お願い、私の為にもう泣かないで。
大好きなお母さん。
思い出す。
いつも大事なことを私に教えてくれた。
『ハルちゃんだけがそれを出来なかったの』
『だから皆で笑ったの?』
『うん』
『雨音も?』
『……うん』
『どうして?』
『皆笑ったし、なんと、なく』
『そう。ハルちゃん、普段仲のいい雨音から
皆と同じ様に笑われて、悲しくなかったかな?』
『あたしは』
私はつられただけ。
ハルちゃんをバカにしたつもりはない。
そう言う前に、お母さんは優しく頭を撫でた。
『雨音は、ハルちゃん大好きだもんね。
でもね、他の人と違う事を思ってした行動でも
結果が同じなら、相手には
そう見えるかもしれない。
言葉も、同じ。
”良かったね”って笑って言われるのと
”良かったね”って怒って言われるのと
雨音だったら、どっちが好き?』
『笑って』
『うん。みんなそれは一緒よ』
『心で思ってることはね、相手には見えないの。
だから、ちゃんと気持ちが
分かってるもらえるように、
態度も言葉も大事に選んでね。
……お母さんが言ってること難しい?』
当時、八歳だった私。
この時の私はちゃんと
理解出来ていたわけじゃない。
それでも、お母さんの言わんとしてることは
感覚として分かったのだと思う。
お母さん私の前に膝を折り、
両手で私の両頬を包み込み
穏やかに笑った。
『ハルちゃんはね、もっと雨音や他の
皆が出来ないモノが得意なのかもしれないね』
『ホント?』
お母さんは頷いた。
『きっとね。人はねそれぞれ得意なもの
不得意なものがあるの。
雨音、跳び箱得意?』
私は首を何度も横に振った。
『ふふ。それと一緒かな。
それにね、皆、その人しか出来ない
特別な力があるのよ』
『雨音も?』
『ちゃんとあるわ』
『何?』
『それは自分で見付けるの。
あ、もしかしたら将来、雨音が一番大事だと
思った人から教えて貰えるかもね』
『お母さんが一番好き、大事!』
『今はね。でも何時かは二番目になる
その時まで、内緒』
『分かった。今度ハルちゃんが出来なかったら
雨音も出来るまで一緒にやる』
そう言った私を
お母さんは黙って抱きしめた。
いつも色んな大切なことを身をもって
接して、教えてくれた人。
――悲しませたくなかった。
「だから……それから、何度も色んな人と
付き合おうとした。
ちゃんと恋愛して私が幸せそうに
してたらきっとお母さんはって
安心させる為にも人を好きになりたかった。
でも……全然ダメで」
今まで自分の中で封印してきたものが
零れ落ちる。
「気持ち悪い、よね……私」
先生に知られていたというのが
恥ずかしくってたまらなかった。
知られたくなかった。
出来れば
ずっと隠しておきたかった。
今までもずっとそうしてきたように。