エゴイスト・マージ

何だかお互い気まずくて
ただ前を向いたまま、電車が来るのを
待っている状態。

隣の裄埜君がちょっとでも動くと
イチイチ、ビクッと反応してしまう。
それは怖いとかそんなんじゃなくって、
……そんなんじゃないけど、
もう良く分からなくて。

私の緊張感がきっと彼に伝わってるんだと
思う、余計責めてるみたいでいたたまれない。


もう私、バカ。


早く電車が来て欲しいのに、
そういう時に限って何故か雨の為に
電車が遅れていますとのアナウンスが
流れてきて。

嘘でしょう?

なんで遅れてるのよぉ?

泣きたい気分になってきた。

「あのさ」

「は、はい!?」

横に立つ彼からの声で
びっくりして今、ちょっとだけ
私、宙に浮いたんじゃないかと
思うほど飛び上がった。

「……もう、しないから普通に話してよ」

「わ、分かった!」

自分でもおかしくなるくらい
上ずった声が出てしまう。

「ブッ」

と、裄埜君は笑うけど。

だって、とてもじゃないけど
視線は向けれない。

彼に対してもだけど、周りにも
まださっきの事知ってる人いるんじゃないかと
思ったら、なかなか普通になんて
戻れるとかないよ。

恥ずかしくて多分もう今日は裄埜君の顔
まともに見れる自信とか余裕とか
全っ然無い。

意識しない方がこの場合おかしいよね?

それは私だけじゃないみたいで、
ホラ、言い出した当の裄埜君すら
こっち見てないし。

お願い、早く電車来て。



“恵以行きまもなく到着致します――”


遅れてきた電車が到着を告げる放送が
流れると心の奥でホッと安堵の溜息が漏れる。
暫くすると電車が滑る込んでくる
姿が目視できた。

良かった、これでやっと……


その時だった、

「えっ!??」

誰かに背中を押された。

「雨音ーっ!!」

それは一瞬の出来事だったと思う。

だけど私の中では、とてもゆっくりと
スローモーションで映像が流れていた。

私が体勢を崩した時、咄嗟に
裄埜君が腕を掴んで引き戻した反動で
線路へ落ちていく姿が。

周囲の悲鳴と怒号は私に
意識混濁化を招き、増悪るばかりで。

その後すぐに電車が軋むような嫌な
ブレーキ音を響かせて私の前を
通り過ぎていった。


プラットーホーム内は恐らく
大混乱で人の動きや口を開けて何か言ってる人
線路に向かって叫んでる人、人、人……

でも、もうこの時の私には全てが無音で。

何も聞こえず、人々の動く様も
酷く緩慢に映っていた。


これは現実であるはずがない。

見えたもの全てを感覚が否定し続ける。
だって、有り得ない事だから。

今まですぐそこで会話していた
あの裄埜君が?



裄埜君が……裄埜君が……



裄埜――君?




「いやぁぁぁぁ!!!!!」




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