エゴイスト・マージ
秘密。裄埜 光

「前に母親の件、話したよね」

「うん」

彼が以前、母親が自殺した原因は
父親の結婚前から好きな人を
今尚、想い続けているからだとの
言葉を思い出していた。



「お父さんの相手の人
もしかして、知ってる?」

裄埜君は目を見開いた。

「……凄いね」

そう言ってもすぐに即答しないあたり
言いづらい何かがあるのは明白だった。

「別に言わなくていいよ、
そんな気がしただけだから」


「…………その親父の相手、誰だと思う?」

不意に分るはずもない謎を問い掛けられる。
だけど答えを私に求めている訳でない事は
視線の行き先からも見て取れた。


「実の姉」



「え……?」


「笑うだろ?

どおりで親父、実家と連絡を
取ろうとしない筈だ……否、
出来なかったんだ、
親から勘当されてたからね。

子供ながらに妙だとは思ってた
正月とか盆とか
一般では父親の里に帰ったりとかするだろ?
ああいうの無くてさ。

というより、
お袋の方とかは交流あったのに
親父のおじいさん達とかと
全く会ったことすら無いんだよね」


あまりに淡々と話す様子がかえって
裄埜君の心の闇の深さを物語る。



「後で知ったことだけど、
驚くことに親父とその女との間には
子供までいたのさ」

「お父さんから聞いたの?」

裄埜君は、まさかと首を横に振った。

「知ってる?探偵料って結構高いんだ。
バイトしまくってたから
中学の時レギュラー外されたよ。
けど、お陰でやっと突き止めた」

それでこの前
またサッカーしてるのかって
友達が言ってたんだ。

好きなモノを犠牲にしてまで……

「関係が発覚してから姉は隔離。
弟は養子に出され、二人は会うことは
かなわなかったけど姉の態度は
弟を想って頑なだったらしい。

結局、当時まだ高校生だったその姉は
中絶を拒んで子供を生んだ」


「その子供を渡そうとしない姉に
業を煮やした両親は
弟が十八歳になるのを待って
無理やり縁談を決めてしまった。

そして自分を裏切って別の女性と
結婚したと言い聞かされてた姉は、
隔離されていた実家からいつの間にか
居なくなっていたそうだ」


「だけど、弟も結局は同じさ。
日記では親父は休みの度に
随分探し回っていたみたいだね。
母さんは一体どんな思いで
その姿見ていたんだろう」


裄埜君の目は私を見ているようでいて
その実、私を通してもっと別のものを
見ている様に思えた。


その奥の誰か……?


それとも過去を見ているのかも
しれない。


そんな目をしていた。



「…………」


突然、クスリと裄埜君が笑った。


「どう……したの?」

脈絡のない表情の変化に戸惑う。



「これにはおまけがあるんだよ」

< 71 / 80 >

この作品をシェア

pagetop