エゴイスト・マージ
「俺は一連の主役でも当事者でもない。
単に“知ってる”だけの傍観者や」
蔦さんは間を置いて
煙草エエか?と尋ねてきた。
真上にあがる紫煙を目で追っていると
蔦さんは再び静かに話し始めた。
「アンタらは互いに一番近い存在
なのかもしれん」
「どう言う意味ですか?」
「ソレ、自分で考え。
もっともアンタの方は気付きかけてる
ぽいけどな」
「……?」
蔦さんの謎かけは今の私には難し過ぎて
答えが分からない。
でもきっとそう聞いてもやっぱり
教えてくれなさそうな雰囲気で……。
何だか私だけ置いてけぼりで
悔しいから蔦さんに反撃する
ワードを脳内で必死に検索し始めた。
……あった、一個だけ。
「そ~う~言えば、蔦さんの恋愛の方は
進展ありました?」
「ないで」
うっ、即答されちゃった。
「えっ……と……」
余計な事ふらなければ良かった。
何とかこの気まずい雰囲気を
回避したくても、続く言葉が
私のたりない頭では咄嗟に出てこなくて
「で、ですよね~
中々簡単に行きませよね!
わ、私の知り合い人も
同じようなこと言ってました。
綺麗で頭良くって
優しくって女の私からみても
非の打ち所のない人で」
「へぇ」
苦し紛れで言った言葉に
もしかして食いついてくれてる?
多分だけど蔦さんが
少し興味を持ってくれた感じの反応に
調子づいて私は話づつけた。
「そんな人でも、
恋愛は上手くいかないって
言ってましたから。
ずっと片思いしてて、相手に
好きな人がいるって分かっていても
だからって諦めきれないと」
努めて明るく、本来なら他人に
話すことではないけど、
知らない人の話だからと
つい口にしてしまった。
おーちゃんゴメンナサイ。
「そら、切ないな」
「そーなんです。
しかもですよ、その人な、な、なんと!
男の人が憧れる女医さんなんですよ」
「………………」
「私が男だったら絶対、
好きになっていますよ。
勿体無いと思いません?その相手」
振り返って蔦さんを見ると
まるで焦点が合ってない虚ろな目で
顔だけ私の方を見ていた。
「蔦、さん?」
「……ああ、
その男……サイテーや」
「でしょ、でしょ!」
「出会うべくして出会う、そういう事
今の今まで信じたことなんかあらへんのに
この状況にあると流石にそう思うわ」
「え?」
「…………ホンマ、お嬢ちゃんは
いま俺らの中心におるんやな」
私を真っ直ぐに捉えて話す、蔦さんは
それまで茶化していた雰囲気を
一掃したかのような口ぶりだった。
独り言のようでいて、その目は
優しくて、その目で見つめられると
先生に感じるものとは全然違う感覚
だけど、急に雰囲気を変えた蔦さんに
不覚にもドキドキしてしまった。
「そ、その……蔦、さん?」
「心配せんかてきっと良い男が
その女医さん現れて幸せになるて。
そんなイイ女ほっとく馬鹿は
ソイツだけしかおらへん。
誰か別の男に取られた後、
死ぬほど後悔したらエエんや」
「ですよね」
「で、何処の女医さん?
今度紹介して貰われへん?」
「ダーメ。個人情報先に漏らしてるから
素性は内緒」
「ケチ~」
いつもの蔦さんに戻ってホッとした。
さっきまでは全然知らない誰かに
見えてしまってちょっとだけ
戸惑ってしまった。