エゴイスト・マージ
秘密。三塚

三塚

「はぁ~~~~~」





三塚は盛大な溜息を付いた。


そして、それは全く
予期しない方向へと変貌していった。




三塚は前の椅子に
私と向かい合う様、跨いで座り、



「流石に、生徒には手を出さないように
してるんだ後々面倒くさいんでね」



突然の口調はガラリと変わっていて
一瞬耳を疑う程で、

「え……?」

不意に聞こえた声に驚いて
見上げた顔は今までのやさしく、
穏やかな三塚からは
想像もできないほどの
見たことも無い冷たい笑い顔で
ゆっくりと私の髪を梳い上げる。

「驚くことはないだろ?
前に例の場面を見てるはずだ
見間違えじゃねーよ」

目の前にいる人を俄かには認識できなかった。

「お前には何度も
見られちまってるからな。
取り繕うのがもういい加減
メンドーになってきた」

そういう声色も聞いたこと無くて。

「ガキは嫌いだし、お守りは面倒だって
言ったんだよ。さっきの答え。

っていうかさぁ、好きって何?」

「何って……」

「俺、もともと恋愛とか
全く興味ねぇしな。

ていうか、好きになるという感覚が
分んないって言った方が寧ろ近いか」


俺?

ダ……レ?コノヒト


「ど……どういう意味?」


「まんまさ。

生まれてこの方誰かを
好きになった事は一度も無い。
そういう感情すらな」




私がバカみたいに呆けてると



「……いいだろう
面白い話を聞かせてやる」



抑揚すら感じられない声で
目の前の人物は話し出した。

まるで絵本を子供に読みきかせるように。






「昔々あるところに男の子がいて
その子は魔女と一緒にすんでいました。

その魔女は次々に色んな人間を
追いかけては夢中になり
人間と仲良くしている間は
その人間のことしか考えられません。

男の子のことなどすっかり忘れていました。

でも、その人間が魔女を捨て
別の所に行ってしまうと

まるで突然存在を思い出したかのように
その男の子のところに来ては、
自分の感情を怒り狂ったように
ぶつけるのでした。

それは魔女が別の人間を
見つけるまで執拗に続きました。
そして、またその人間が魔女の元を去ると
同じように男の子を傷つけるのです。

男の子は、魔女の豹変振りに
驚きと恐怖で一杯で
怖くて怖くて仕方がありませんでした。

でも、男の子は
どんなに怖くても悲しくても
とても小さい子供だったので、
誰かに助けを求める方法が
分かりません。

それでもある時やっとの思いで
人間に”助けて”と言えたのです。

ですがその人間は
見てみ見ぬフリをして足早に
逃げてしまいました。

男の子はその時、知りました。

他人に助けを求めることは無駄なのだと。

そして次第に”し”を
覚悟するようになりました。

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