エゴイスト・マージ



そんなある日

魔女は自分の気に入った人間が
いなくなってしまう原因は
全部男の子のせいだと思ったのです

『お前なんか生まれて
来なかったらよかったのに』

と、背中に魔女の鋭い”つめ”を
何度も突き立てました

男の子は近くの病院という所で
”手術”をし、ようやく助かりました

少年は意識が戻った時
魔女の事が怖くなくなっていました
いえ、どうでも良くなったと言った方が
良いのかも知れません
いつしかそんな感情すら
無くなっていたのです


愚かな魔女は
”とくべつなびょういん”に入り
それ以来少年は
魔女と会うことはありませんでした

めでたしめでたし」




そんな事を話す三塚の顔は
ゾッとするくらい綺麗に微笑んでいた

私は、信じられなくって怖くって
ガタガタ震えてる足を
宥め様と必死だった

でも先生には絶対
気が付かれちゃいけないことで

だってそれは

……肯定を意味するから

それでも、涙だけはどうしようもなくて


「な、面白い話だろ」


目の前で笑いながら話す三塚に
何を言えばいい?

今、三塚はどんな気持ちで
私を見てるの?

霞んではっきりと分からなくって

言葉が

……言葉がどうしても見つからない




じゃぁ

先生が誰にもやさしいのは
無関心だから?

先生が女の人に残酷なのは
母親に見立てた復讐?



誰でもに話せる話じゃない

何故私に話したの?

これ以上近づくなって事?


それとも……





「俺は好きとかいう

感情自体ないんだよ」

「ない?」

「ああ、違うな
人が人に対する感情というヤツを
理解できないと言った方が分かるか

でも……多分、演技は上手い方だと思うぜ」

「演技?神谷先生とかにも全部……」

「だと言ったら?」


そうもう一度笑った先生を
ただ見てるしかできなかった





あの告白から目に見えて
先生は変わった

あくまで私の前でだけ、だけど

「月島~食べるんならさっさと入れ」

お弁当を持って化学室の前で
どうしようかと
立ちすくんでいると背後から
先生の声が降ってきた

と、その時
別の男子生徒が教室に忘れたモノを
取りに戻ってきた

「ああ、これでしょう?
取りにくると思って待ってたんですよ」

先生が鉄壁の
スマイルでペンケースを指差す

その生徒は’さすが先生やさしい~’

と何度も頭を下げて
帰っていく生徒

一連の行為を横目で見ると
今行った生徒の方向をみたままこちらを
見るわけでもなく先ほどの笑顔で

「何だ?」

と、ぶっきら棒に言われた
おまけに早く入れとばかりに
軽い?足蹴りが飛んできたりして

「…………」

少なくとも私の前では”いい人”
を演じるのをやめたらしい



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