Welcome to the world

願いの行方

「わたしは……。」
口籠もる藤高涼歌。何かに怯えるかの様に俯いた彼女は、ふいに涙を零した。そして静かに首を横に振った。
「いいえ。要りません。」
鈴はその答えに、満足気に頷いた。
「フッ、賢明な判断だな。
君たちも気付いただろう。『夢をみない世界』が、どれだけ色褪せているか。人は夢見る事を止められない生き物だ。それを止めてしまった人々は、正に死んだ様に生きる者たちになる。」
そして、ふわりと笑った。それは年相応の幼さを持った、優しい笑みだった。
「おそらく、君が夢を見る事を止めたいと願ったのは、誰かに夢を笑われたからではないかい?人に笑われる事を恐れ、逃げた。」
静かで無機質なのに、どこか温かみのある声で語る鈴。その言葉に、藤高涼歌はただ頷くばかりだった。
「安心したまえ。将来的に望む形に辿り着ける者は、夢を見た者たちだ。君は何も変わる必要はない。今の世界を存分に生きたまえ。」
そして最後にこう締め括った。
「では、私たちの世界に帰る事としよう。」
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